人事研修・海外事業の法人ご担当者向けのオンラインセミナーを開催しました。
「グローバル人材育成オンラインセミナー 新型コロナ対応 海外留学に代わるオンライン型語学研修のあり方とは」
日本経済新聞社人材教育事業局 トライオン株式会社共催 日経ビジネススクールセミナー
2020年5月28日(木)11:00~12:00
第1部 11:00~11:50 パネルディスカッション
第2部11:50~12:00 オンライン型プログラムの紹介
パネリスト
第1部パネルディスカッション より、パネリストのお話をご紹介します。
本来、海外留学で期待するべき効果とは?
門田氏:留学中にどんな生活をして何をするかがすべてだと考えます。日本でもリスニングやリーディングのチャンスを増やすことはできます。ただし、英語での会話で、理解し、どう答えるか考え、言葉にして発する、の3つの同時進行や、相手にどう反応するかという「インタラクション」は、日本では学習のチャンスが少ないと思います。英語で、理解すること、発することができても、瞬間的に上記の3つを同時処理する力が日本ではなかなかつかないと言えます。留学の効果を一番期待できるのは「インタラクション」のところだと考えます。
新崎氏:私自身、留学の経験がなく国内でのみ英語の勉強をしてきました。通訳者の指導をしている中で、英語自体が堪能な方の特徴として、日本語が貧しい場合があり、英語力よりもそちらの方が課題となります。企業から派遣留学された人は、期間中にどれだけ勉強し、日本人との接触を断って現地の人と接したかが問われるが、それ以上に、留学から帰り、英語を使った仕事をしているかどうかが大切です。
– 渡航国によって効果に違いがあるか?
門田氏:結局のところ、どこにいくかより何をしたか、です。日本でも実際に英語を毎日使っていれば留学と変わらないと言えますし、実際にニューヨークなどでも留学に来ていて日本人とばかり接している人は結構多くいます。英語圏で英語を使う環境にいても、一方的に聞く・話すではなく、インタラクティブのコミュニケーションをどれだけとるかが非常に大事です。
30代後半以上のミドル人財の英語力に切り込む!
– 弊社の営業が企業訪問すると、20代はそこそこできるが、30代後半から苦手な方が多いという声をよく聞くようです。世代によって言えることはあるのでしょうか?
新崎氏:若年層の英語力が昔よりも高いとは思いません。個人差が拡大して、ものすごくできる人がいる一方で、基本的文法すら身についていない大学生もいて、後者のほうが多い。結論として「20代がそこそこできる」とはいえず、「30代後半から苦手な人が多い」というのは思い込みだと思います。
この思い込みの可能性としては、大卒者の採用基準が変化したことが挙げられるのではと考えます。今35歳以上の採用が行われたのは2007年ぐらいで、08年にリーマンショックが起きるなど経済環境が安定せず、企業は手堅い人材を求めたと言えます。比較して、25歳の人が採用されたのが2017年前後とすると、企業側も多様な経験を持つ人を求めるようになった、と言えるかもしれません。ですから、35歳以上も決して見捨てる必要はありません。私自身、リスニング力が一番伸びたのは35歳からでした。
門田氏:30代でもやれば伸びるのは間違いないでしょう。私も昨年、半年間ニューヨークへ行って、その時でもかなり伸びたという実感はあります。これまでの第二言語習得研究では、世代ごとでの違いについて調べた研究成果は、ほとんどありません。ただ、年齢の影響については、「臨界期」に関する研究が有名です。それによりますと、英語のネイティブのような発音を身に付けるのは、1歳以降極めて困難になりますが、それ以外のリスニング力、考えて話す力、リーディングやライティング力は、練習すればするほど、学習すればするほど力がつくことが確認されています。
– 新崎先生は30代から英語力が伸びたということだが、苦労した点は?何をしたらいいのか?
新崎氏:大学の時はESSクラブに入っていました。ディベートをやっていたのでスピーキングは鍛えられたが、リスニングはどうしても後回しになりました。リスニングをどうするか悩んだが、シャドーイングはとてもよかった。音声に対する集中力を高め、口で追いかけるので、時間がかからない点ですごくよかったです。それから、メッセージをつかむ練習もしました。大意をつかみ能動的に内容を理解する訓練をずいぶんしました。FENで定時のニュースを聞いて書き出すとか、口で言ってみるとかそういうことをしました。知らない単語が聞こえてきたから分からない、ではなく、この人は何を言おうとしているかを考える能動的な理解と、シャドーイングを中心とした精密な聞き取りが、二本柱でしょう。
言語学・コミュニケーション学に基づいた英語習得法とは?
新崎氏:英語学習の目的はコミュニケーションだということがすべてです。
日本の英語授業でもその視点が抜けているため、日本語母語の話者が英語を勉強する際に頭におくべきなのは、コミュニケーションスタイルの違いです。
一番大きな違いはHigh ContextかLow contextかということ。High Contextとは、コンテクストに頼ってコミュニケーションするスタイルで、言外の意味や察しを期待することです。通訳として、High Contextの日本語を英語にする際に大変苦労します。英語やその他言語は圧倒的にLow contextで、言語化して伝えないと伝わりません。同時通訳の際に、「英語みたいな日本語をしゃべる」と感じる人がいますが、そのような方の話し方なら英語に変換してもよく通じます。High Contextのスタイルから一歩も出ない人がいくら勉強しても、伝わる英語になると思えません。
もう一つの違いは「読み手・聞き手責任」か「話し手責任」かです。日本語は圧倒的に読み手・聞き手責任で、変な文章でも、少々しゃべり方が悪くても、聞き手が全部それを理解することが期待されます。ところが英語は圧倒的に書き手・話し手責任で、英語が母語の話し手に「わからない」と言って聞き返すのは恥でも何でもなく、聞き返すべきなのです。わからないのは自分が悪い、自分のリスニングのせいだと思って聞き返さないでいると、ますます話しづらくなると思います。
World Englishesという、世界各国の英語はそれぞれ独特の特徴と平等の価値を持ち、英語は話し手の文化を表現する手段だという考え方があります。英語を使ってだれと話をするのか?これを考えると、何のために英語をやるのかがよくわかってくると思います。
門田氏:英語の母語話者が世界の言語をどれくらいの時間で学習できるかの目安となる一覧表があります。それによると、一番簡単に学習できるのは、カテゴリー1のデンマーク語やオランダ語です。一方、日本語も含め韓国語、中国語などはカテゴリー5になっています。しかしこの中でも、日本語はとりわけ難しい言語であると注記されています。英語と日本語に言語的距離が大きいということは、日本語をもとにした類推は、英語学習にはまず役に立たないということを示しています。この大きな言語差に加えて、新崎先生がご指摘になった、High context vs. Low contextという文化的な壁を乗り越える必要もあります。
私自身、2018年に「外国語を話せるようになるしくみ」という本を出し、外国語を話せるようになるポイントとして、I.P.O.M.(インプット理解、プラクティス、アウトプット産出、メタ認知モニタリング)の4つを提案しました。英語を聞いて理解できるようになっても、その能力をアウトプットにつなぐためには、聞いたものを繰り返す、スピーキングの前段になる練習をたくさん積む必要があります。母語との言語差の大きな英語を学ぶ私たち日本人にとって、I.をO.に結びつけるには、その間にあたるプラクティスが非常に重要な意味を持ってくると考えています。このための代表的なトレーニングとして、聴いたものを間髪おかず繰り返すシャドーイングが極めて大切であると言えます。
シャドーイングはまた、
①インプット音声を知覚して、
②その意味を理解しながら、
③発声(発音)し、さらにまた、
④自分のシャドーイング音声を聞いてモニターする
という4つのプロセスをほぼ同時に実行するトレーニングです。
それだけ英語の総合力を育成するのに適した学習法です。ただ、シャドーイングの学習は、あまり無理をせず、散歩やジョギングなどと、何か別の運動と組み合わせて行うのもいいと思います。
ことばの学習って、それだけに集中するよりも、エクササイズなど運動しながら行うと、意外に効果が上がるものですよ。
‐年齢の高い従業員への英語研修で、必須にすべき内容はあるか?
新崎氏: 一つは、学習システムを作ること。日常的に自分だけでやっていける人はいいが、仲間を作って一緒に学習するとか、あるいはコーチのように、そばでチェックして動機付けしてくれるような人が身近にいるといいと思います。もう一つはやっぱりインタラクション。実際にネイティブのレッスンを受けて、ネイティブの人と話すというのはとても重要です。勉強するだけではだめで、使う環境を自分で作ることが欠かせないでしょう。
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