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Q.041


20代 IT企業勤務

ITのプロジェクトマネジメントを英語で行う自信がありません

ITのサービス企画・開発で、海外メンバーを含めてプロジェクトを進めています。今は上司が中心にマネジメントしていますが、そのうち私が引き継ぐように言われています。TOEIC L&Rのスコアはありますが、英語でマネジメントをする自信がまだありません。ITエンジニアとしての英語を効率的に学習する方法を教えてください。

A.

結論:3つのジャンル(パターンプラクティス・シャドーイング・レッスン)で最短3カ月、標準6カ月で習得できます

ゴールが明確なので学習プログラムのデザインは比較的容易です。専門分野に特化した教材とレッスンで、最短3カ月、標準6カ月、長くても1年で習得可能です。

期待されていることは良いこと
上司がそう期待しているのであれば、プロジェクトマネジメントの専門知識や経験は持っていると判断されているのでしょう。また、おそらく英語の基礎力(TOEIC L&Rのスコア)もお持ちです。あとは実務で使える英会話力だけです。

なぜITマネジメント英語は習得しやすいのか
英語を使ってマネジメントする自信がないという悩みは、最も多い相談の一つです。しかし、明確化された悩みの場合、英語学習プログラムのデザインは比較的容易なことが多いのです。

理由:
・必要な語彙や言い回しは限られている
・教材としてまとまっている

むしろ、パーティーでのスモールトークをこなせるようになりたい場合は、語彙や言い回しが無限に広がる可能性があり、習得が難しいと言えます。

3つのジャンルで学習プログラムを構築
現在の英語力と学習のゴールが明確になれば、この2つを結ぶ教材のロードマップを作ります。英語力のベースがある程度あるなら、すぐに使える実践的な教材を選ぶことが重要です。

①パターンプラクティス(自主学習)
あるシチュエーションのパターンに合わせてフレーズを暗記し、一部を入れ替えることでリアルタイムに発話するための学習です。特別にスクールに通う必要はありません。

推奨教材:『プレゼンを100%成功させる!! ITエンジニアの英語』(板垣政樹、小坂貴志著:秀和システム)

この教材の優れた点:
著者がITの実務家 板垣氏:元米マイクロソフトのシニアプロジェクトマネージャー(音声認識システム)
小坂氏:神田外語大学准教授、元日本IBMのSE
現場で本当に使われているフレーズ 英語として正しいが実際は使わないフレーズではなく、グロービッシュ的なフレーズも掲載。実務面を優先している
英語以外の要素も網羅 スライドイメージ、論理の組み立て方、目線の動かし方など、英語でのコミュニケーション全体を押さえた内容
プロジェクトマネジメントも充実 タイトルは「プレゼン」だが、プロジェクトマネジメントも同じくらいの比重で取り上げている

②シャドーイング(自主学習)
前述の教材も音声データをダウンロードできますが、単語一つずつが明確に発音された「教材としての英語」になっています。

日本人が英語を聞き取れない最大の原因:
単語が結びつくことで起きる音の変化と、受験英語として学んだ文字ベースのテキストが結びつかないこと

ですから、自然な英語を学ぶことが大事です。シャドーイングについては、ITに特化する必要もありません。せいぜいビジネスや法律分野などで絞り込めば十分です。

実例:GAFA企業で米国本社に転籍した方
映画『プラダを着た悪魔』のシャドーイングを1本まるまる暗記。VERSANTスピーキングテストのスコアも飛躍的に伸びて転籍に成功しました。
推奨:自分が興味を持てる映画を教材にする。
まるまる1本覚えることが楽しみと言えるくらいの映画が理想的です。

③レッスン(スクール・講師)
教材・テーマ選びが重要です。一般的な教材よりも、実際に行うプロジェクトマネジメントの内容そのものに近いほうが望ましいことは言うまでもありません。

推奨教材:TED Talks
プロジェクトについて取り上げたものを使う方法があります。例えば:
・宇宙開発プロジェクト
・プランクトンについてのプロジェクト
これらについて、課題や解決策を英語ネイティブの講師と議論します。

重要ポイント:融通が利くスクール・講師を探す
教材やレッスンについて柔軟に対応できるかがポイントです。個別最適化したレッスンをするスクールは担任制になっていることがほとんどなので、スケジュール調整が必要かもしれません。

理想:実際のプロジェクトで議論
状況が許せば、実際に行っているプロジェクト自体について議論することもあり得ます。しかしこのような場合には、営業上の秘密や個人情報の漏洩に当たらないよう、情報の取捨選択をある程度する必要があります。その代わり、パターンプラクティスで学んだフレーズを駆使してより実践的なレッスンをすることも可能です。

習得までの期間
ゴールから逆算し、個別最適化して教材とレッスンをきちんと行えば:
・最短:3カ月
・標準:6カ月
・最長:1年

実際に英語でプロジェクトを行う現場にいるわけですから、アウトプットのチャンスには恵まれています。

今すぐ始めるべきこと
プロジェクトマネジメントというゴールははっきりしています。悩むよりもまず:
1.パターンプラクティス教材を選ぶ 『プレゼンを100%成功させる!! ITエンジニアの英語』
2.シャドーイング教材を選ぶ 興味を持てる映画を1本
3.レッスンのスクール・講師を探す 融通が利くところ、担任制でスケジュール調整可能なところ
4.学習計画を立てる 3〜6カ月の期間で目標設定

上司の期待に応えるため、今すぐ行動を始めましょう。

Q.042


30代 外資系医療機器メーカー勤務

上司がインド人になり、インド英語が聞き取れず困っています

最近、上司が日本人からインド人になりました。1対1の面談で目標設定し、達成度で評価が決まります。昇給や昇進にも影響があるのでプレッシャーですが、インド英語がどうしても聞き取れず、何度も聞き返すのも失礼な気がして本当に困っています。インド英語に素早く慣れる方法を教えてください。

A.

結論:3つの方法(シャドーイング・パターンプラクティス・レッスン)で3〜6カ月で対応できます

適切に取り組めば3カ月から半年で対応できるようになります。シャドーイング、パターンプラクティス、インド人講師とのレッスンの3本柱で学習しましょう。

増えるインド英語の悩み
同じ悩みでの受講者が増えているのは事実です。日本のビジネスパーソンが置かれている環境のボーダーレス化がより進んできているのだと思います。

従来の対応:まずは英米英語から
従来は、このような悩みで来られる人にも、基本的にはアメリカやイギリスなどの英語を第一言語とする話者の発音をリスニングできることをまず目指すように推奨してきました。
そして、インド英語が聞き取れない場合に「聞き返す」「確認する」といったコミュニケーション・ストラテジーで対応することを推奨し、加えてリスニング向上のためにインド英語を含む教材でシャドーイングをするという対応をしてきました。

最近の変化:インド英語特化プログラムの増加
最近は受講開始時の英語レベルが比較的高くなってきていることと、インドやアジア諸国の英語についての教材が増えてきていることから、インド英語を学習するプログラムを設計することも増えてきています。

推奨教材
・『日本人のためのインド英語入門 ことば・文化・慣習を知る』(本名信行/シャルマ アナミカ著:三修社、2021)
・『新アジア英語辞典』(本名信行ほか著:三修社)
これらはインド英語やインド人とのコミュニケーションを学ぶための非常に良い教材です。

前提:インド人は発音を割り切っている
日本人がインド英語を学ぶ際に前提とすべきことが1つあります。
インド人はそもそも、英語を第一言語とするアメリカ人やイギリス人の発音やアクセント、イントネーションを「正」として合わせて矯正しようとは思っていません。
日本人に置き換えて言えば、日本語の影響を受けたカタカナ英語で良いという姿勢です。

インド人の考え方:英語の学習効率を上げコミュニケーション手段として使えるようにするため、発音については一種の割り切りで矯正をしないことにした(本名先生による)。
この考え方は、「発音はビジネスパーソンとして最低限のコミュニケーションができるCEFR B1レベルに達してから」という基本的な考え方と共通します。発音を矯正し始めると、実用的に使えるようになるまで大変な時間がかかり挫折する可能性が高いからです。

具体例:インド英語の音の特徴
・「th」→「t」の発音でも問題ない(きちんとした教育を受けたインド人でも「t」)
・「r」→「ル」と発音
・「yesterday」→「エスタディ」(「/ye/」が「/e/」になる)

方法①:シャドーイング
できるだけリアルな音声が収録され、かつ表情や動作も見ることができる教材でシャドーイングをすることがベストです。

インド映画は教材になる?
インド映画らしい作品で学びたいところですが、実際はヒンディー語やタミル語などで作られるケースが圧倒的に多く、インド英語が話されていません。
動画サービスで見られるインド英語の映画もあります(例:『マリーゴールド・ホテルで会いましょう』)が、字幕が英語でないのが惜しまれます。

最適な教材:『日本人のためのインド英語入門』
インド英語の教材として出されている本の中には、ネイティブ話者の英語に近過ぎるものがあります。

その点、この教材は以下の点で優れています:
・実際のインド英語話者の音声がダウンロード可能
・スクリプトと解説付き
・シャドーイング教材として最適

方法②:パターンプラクティス
インド英語の語彙やフレーズの強化のために、『日本人のためのインド英語入門』に加えて『新アジア英語辞典』を使うのが良いでしょう。

例:「分かりません」 インド英語:"I am not getting you."
インド英語の特徴:
・"I am"を"I'm"と省略することは少ない
・現在進行形を多用する
このような特徴的なインド英語の語彙とフレーズ暗記によるパターンプラクティスの教材として、『新アジア英語辞典』は非常に有益です。

方法③:インド人講師とのレッスン
可能であれば、インド英語のネイティブ話者(英語のネイティブ話者ではありません!)とのレッスンは受けるべきです。

学べること:
・インド英語
・彼らの文化や考え方
・論理の立て方
・ジェスチャー

例:首の振り方
・日本:「はい」は縦、「いいえ」は横
・インド:「はい」は横
このようなことを学ぶために、インド人とのレッスンが大変役立ちます。

講師の見つけ方:オンライン英会話の各種サービスで、インド人の英語講師は比較的簡単に見つけることができます。

まとめ:3〜6カ月で対応可能
適切に取り組めば、インド英語の対応ができるようになるのにそれほど時間はかかりません。個人差はありますが、3カ月から半年です。

実践ステップ
1.シャドーイング(自主学習) 『日本人のためのインド英語入門』の音声を活用
2.パターンプラクティス(自主学習) 『新アジア英語辞典』でインド英語特有のフレーズを暗記
3.レッスン(スクール・講師) オンライン英会話でインド人講師を探す

上司との面談で評価が決まるプレッシャーは大きいと思いますが、適切な学習方法で確実に対応できるようになります。頑張ってください。応援しています。

Q.043


30代 IT企業勤務

入社してみたら英語が必要でした。すぐに使えるライフハックはありますか?

最近転職をしました。入社前に英語力は必要ないと聞いていましたが、実際は、会議や社内調整などで英語を使用する場面がかなりあります。英語力をつけるためには時間がかかるということは理解していますが、なんとか英語を使う場面を乗り越えるための即効性のあるライフハック的な工夫を教えてください。

A.

結論:3つの方法(シャドーイング・パターンプラクティス・レッスン)で3〜6カ月で対応できます

適切に取り組めば3カ月から半年で対応できるようになります。シャドーイング、パターンプラクティス、インド人講師とのレッスンの3本柱で学習しましょう。

(1)リスニングのライフハック:音声認識ツールを活用
まずはリスニング対策です。おすすめは音声認識AI「Otter」。会議の発言をリアルタイムでテキスト化し、あとから対応箇所を聞き返すことができます。
・会議中にスマートフォンでOtterを起動し、画面を見ながら内容を確認できる
・本当に困ったときは、テキストを見てから返答すればよい(沈黙より効果的)
・会議後はその文字起こしを「シャドーイング教材」として再利用できる
Otterを使えば、会議そのものが学習素材に変わります。自分の業務に直結した“最高の教材”として、聞き取り力と語彙力を同時に鍛えることができます。

(2)スピーキングのライフハック:カンニングペーパーを作る
次にスピーキング。事前に言いたいことをまとめ、カンニングペーパーを用意して臨むのが効果的です。
・自分の発言内容や想定される質疑応答を日本語で整理
・「主語・動詞・目的語」を明確にした短文で書く
・翻訳には自動翻訳サービス「DeepL」を活用
・カンペを会議で実際に使用し、終了後は教材として蓄積
プロの通訳者も国際会議前には必ず予習を行います。事前準備があるからこそ、本番で安心して発言できるのです。

会議そのものを最高の学習の場に
Otterで会議内容を振り返り、DeepLで作ったカンペを学習資産にする。この繰り返しこそが、即効性と継続性を兼ね備えた最適なトレーニングです。
実際の会議の緊張感や集中度は、スクールのレッスン以上の学びを与えてくれます。

英語のライフハックは単なる“応急処置”ではなく、英語マスターへの近道でもあります。実務をこなしながら力を伸ばす最高の機会として、ぜひ積極的に取り入れてみてください。応援しています。

Q.044


30代 医師

子供にも大人と同じ英語学習方法は可能ですか?

子供にも英語を話せるようになるための学びをさせたいです。Q&Aで紹介されているような学習方法は子供でも可能でしょうか。

A.

結論:「子供に対しても可能ではあるが、年齢と受験のタイミングを踏まえた慎重な設計が必要」です

子供への適用は「年齢と受験のタイミング」がカギ
ご質問の「インストラクショナルデザイン・アプローチによる学習法」は、ゴールから逆算して教材や方法を最適化する考え方です。お子さんにも応用は可能ですが、ポイントとなるのは「年齢」と「受験のタイミング」です。
TORAIZにも親子で通う方が少なくありませんが、場合によってはお子さんの年齢や学習環境を考慮して受講をお断りすることもあります。

習得に必要な学習時間は「2000時間以上」
ゼロから英語を始める場合、10歳以上のお子さんでも「話せる」ようになるまでには最低2000時間が必要と考えられます。米国務省の分析や当スクールの受講生データでも、この数字は裏付けられています。
一方で10歳未満のいわゆる「臨界期」にあるお子さんも同様で、文法学習に頼らずとも自然に吸収できる分、多くの時間を英語環境に浸かることが不可欠です。その場合、バイリンガル幼稚園やインターナショナルスクールの活用が現実的な選択肢となります。

小学4年生未満は「楽しく英語に触れる」が最優先
インストラクショナルデザイン的な学習を無理に導入すると「英語=勉強でつらいもの」という印象を与えかねません。そのため、TORAIZでは小学4年生未満のお子さんの受講はお断りしています。
この時期に大切なのは、「英語で歌う」「英語で遊ぶ」といった楽しい経験を通じて、英語への好奇心やポジティブな感情を育むことです。

受験との両立をどう考えるか
小学4年生以上のお子さんの場合は、次に「受験」が学習計画に大きく影響します。
中学受験を考える場合、合格のために3年間で1000〜2000時間は必要です。ここに英語の本格学習を同時並行で行うのは現実的に難しいため、まずは受験合格を優先すべきでしょう。本格的な英語学習は、中学進学後が適切なタイミングです。

大学以降でも遅くはない
仮にインターナショナルスクールや中高一貫校に進まず、高校卒業までに本格的な「使える英語」の学習時間を確保できなかったとしても、心配はいりません。高校までの学習で文法や語彙の基礎は身についていますし、大学で将来像が明確になれば、社会人と同様に「ゴール設定+1000時間の集中学習」が非常に効果的に機能します。

子供自身の意思を尊重することが最大のポイント
英語学習の最適な開始時期は「子供自身が将来像や学びの目的を意識できるようになったタイミング」です。親の意思だけでなく、お子さんが「話せる英語を学びたい」と自発的に思えることが最も大切です。その上で学習プランを最適化すれば、最短距離で成果を得られます。

まとめ
お子さんの英語学習については、年齢・受験・将来像を軸に「学習開始のタイミング」を見極めることが重要です。慌てる必要はなく、まずは英語や海外への興味を育てる働きかけから始めましょう。やがてお子さん自身が「英語を学びたい」と思えた時こそ、最適化された学習プランが最大の力を発揮します。

Q.045


20代 官庁勤務

多忙なため、週20時間の英語学習は到底できません。どのように英語学習の時間を捻出すればよいでしょうか?

平日は深夜まで勤務し、土日も出勤することがあります。多忙なため、週20時間の英語学習は到底できません。しかし将来的には、海外留学や国際会議の事務局業務に携わる可能性があります。このような環境で、英語学習の時間をどのように捻出すればよいでしょうか。

A.

結論:週末集中+スキマ時間活用で1年集中学習を

多忙な方でも、平日にスキマ時間を活用し、週末にまとまった時間を確保することで「週20時間」は十分に達成できます。だらだらと2年以上かけるのではなく、1年間で集中的に取り組むことを強くお勧めします。

英語学習時間「1000時間」の意味
TORAIZでは、1年間で1,000時間の学習を推奨しています。これは、週20時間×50週=1,000時間という計算に基づき、英語で自立して仕事ができるレベルに到達するための目安です。

長期計画は続けにくい
「2年間で1,000時間」という計画も考えられますが、仕事やライフイベントによる中断リスクが高く、非効率です。短期集中で1年以内に成果を出す方が現実的で、挫折のリスクも下がります。

平日1.5時間+週末集中で20時間
平日は通勤やスキマ時間を使って1日1.5時間×5日=7.5時間。週末に1日6時間×2日=12時間学習すれば、合計19.5時間となり、目標に近づきます。これは現実的に実践できる方法です。

通勤・ランチ時間を効果的に
平均通勤時間(往復約1時間20分、首都圏では1時間40分)を学習に充てれば、さらに効率化できます。スマホを活用したシャドーイングや音声学習なら、机に向かう必要はありません。

睡眠を削らず継続を
ただし、学習時間を確保するあまり睡眠を犠牲にするのは逆効果です。睡眠不足は学習効率を下げ、長期的な継続を難しくします。

1年での投資が最も効果的
最初は生活リズムを整えるのに試行錯誤が必要ですが、数週間で自分に合うサイクルが見つかります。1年は短く、その先には海外留学や国際会議といった大きなチャンスが待っています。今こそ、集中投資の時期です。

Q.046


40代 家電メーカー勤務

「第二言語習得理論」と「インストラクショナルデザイン」の違いについて教えてください。(前編)

グローバル人材育成研修の担当者となり、研修設計の参考にするために過去のQ&Aを拝読しています。しかし「第二言語習得理論」と「インストラクショナルデザイン」の違いが理解できていません。それぞれの考え方と相違点について教えてください。

A.

結論:両者は出発点が異なります

「第二言語習得理論」は、人が母語以外の言語をどのように学ぶかを探る学際的な理論研究です。一方「インストラクショナルデザイン」は、学習効果を高める教育設計の方法論です。つまり、前者は「言語習得そのものを解明する学問」、後者は「学習を効率的に実現するための設計手法」という違いがあります。今回はまず、第二言語習得理論の発展と特徴について整理します。

第二言語習得理論とは
サンフランシスコ州立大学の南雅彦教授による論文『日本語教育研究:第二言語習得理論とアメリカの日本語教授法への影響』(https://www.aatj.org/resources/publications/book/SLA_Minami.pdf)では、第二言語習得研究(Second Language Acquisition:SLA)は心理学・言語学・教育学などと関わる学際領域であり、広く外国語教授法にもつながると定義されています。
「第二言語(Second Language:L2)」は「第一言語(First Language:L1)」と対比され、母語以外に必要性から学ぶ言語を指します。その習得過程を明らかにするのが第二言語習得理論です。

発展の歴史
南教授の論文を参考にすると、第二言語習得理論は次のように発展してきました。
1.20世紀初頭以前:訳読式教授法(Translation Method)
テキストを第一言語に訳して理解する方法。ラテン語教育に多く使われ、日本の学校教育にも影響が残っています。

2.20世紀初頭以降:直接教授法(Direct Method)
母語を介さずに目標言語を学習する方法。現在も一部の英会話スクールで採用されていますが、進化が限定的でした。

3.1950年代:行動主義(Behaviorism)
反復練習による習慣形成を重視。カセットを用いた米国陸軍方式などが例。ただし、英語と日本語のように大きく異なる言語間では効果が限定的です。

4.1960年代:生得主義(Innatism/Nativism)
チョムスキーが提唱した「言語は人間に生得的に備わる能力」という理論。ただし第二言語学習に直接役立つ方法論は示されていません。

5.1970年代:認知主義(Cognitive-code Learning Theory)
言語の規則や構造を理解することを重視。学習者の能動的参加や意味理解を通じた学習が広がりました。

6.1980年代以降:(認知)理論の発展・多様化、相互交渉(Interaction)とコミュニケーション重視
実社会に近い状況で言語を使うことを重視。ロールプレイなど実践的な活動が広がり、特に文化や習慣の異なる言語学習で有効とされています。

学習法の多様性と次回への展開
以上のように、第二言語習得理論は時代ごとにさまざまな考え方が提示され、いまだ学校教育や語学スクールに影響を与え続けています。しかし「どの理論や方法が最も効果的か」は必ずしも明確ではありません。
そこで注目すべきが「学習をどう設計すれば効率的になるか」を考えるインストラクショナルデザインです。次回はこの考え方を解説します。

Q.047


40代 家電メーカー勤務

「第二言語習得理論」と「インストラクショナルデザイン」の違いについて教えてください。(後編)

グローバル人材育成研修の担当者となり、研修設計の参考にするために過去のQ&Aを拝読しています。しかし「第二言語習得理論」と「インストラクショナルデザイン」の違いが理解できていません。それぞれの考え方と相違点について教えてください。

A.

結論:目的と視点が異なります

第二言語習得理論は、学習者が母語以外の言語をどのように学ぶかを解明する学問的理論です。一方、インストラクショナルデザインは、学習効果を最大化するための教育設計の方法論です。言い換えれば、前者は「学習過程の理解」、後者は「学習成果を最大化する仕組み作り」が主眼です。今回は、インストラクショナルデザインについて解説します。

インストラクショナルデザインとは
インストラクショナルデザイン(ID)は、熊本大学の鈴木克明教授によれば、「教育活動の効果・効率・魅力を高めるための手法を集大成したモデルや研究分野、またそれを応用して学習支援環境を実現するプロセス」と定義されています(※1)。対象は英語に限らず、あらゆる教育領域を含み、日本語では教育工学と訳されています。

起源は第二次世界大戦中の米国フロリダ大学での軍事教育研究で、極めて実践的・工学的なアプローチとして発展しました。つまり、現場で即使える「実用的な学問」という特徴があります。

インストラクショナルデザインの主要理論
1. ADDIEモデル
ADDIEモデルは1970年代半ばに米軍のためにフロリダ州立大学の教育技術センターが開発したモデルが原型といわれています(※2)。

ADDIEモデルは、インストラクショナルデザインの分野で最もよく使われるモデルの一つで、学習プログラムの開発者が効果的なプログラムを生み出すためのガイドとなるものです。学習のプログラムを次の5つのプロセスに分解して組み立てるモデルで、これらの5つのプロセスの頭文字をとってADDIEモデルと呼ばれています(※3)。

ADDIEモデル
1.Analyze(分析):
プログラム開発者は、学習プログラムの前提となる学習目標を定め学習者の現状を調査し把握します。また、学習進捗を測定する尺度などを定めます。

2.Design(設計):
プログラム開発者は、学習プログラムを分析した結果に基づき体系的に設計します。

3.Develop(開発):
プログラム開発者は、設計に基づき具体的な教材を開発します。現在では、動画やスマートフォンのアプリケーションも一般的となっています。

4.Implement(実施):
プログラム開発者は、実際にプログラムを実施する講師に対して学習目標や教材の使い方、評価方法などについて共有し、プログラムを実施します。

5.Evaluate(評価):
プログラム開発者は、学習者が学習目標を達成したかだけでなく、分析から実施までの各ステップにおいて目標を達成したことを確認し評価します。

ADDIEモデルは、プロジェクトマネジメントやPDCAに近く、ビジネスパーソンにとっても理解しやすいフレームワークです。特徴的なのは、プログラム開発者が実施成果まで責任を持つ点で、従来の学校教育や企業研修の考え方とは異なります。

2. ブルームの2シグマ問題
1984年、アメリカの教育学者ベンジャミン・ブルームが提唱した理論です。個別最適化したマンツーマン学習では、従来型の集団授業より95%以上の生徒が高い達成度を示すことを示しました(※4)。
ブルームの2シグマ問題
縦軸は生徒数、横軸は達成度を表す。(1)は従来型の1対30の一斉授業(Conventional)、(2)は1対30でありながら次の段階を学ぶ前に前の段階を習熟してから進む「習熟学習」(Mastery Learning)、(3)は1対1の「個別授業」(Tutorial)とで比較。個別授業が高い達成度を示した生徒が多い結果となった

この理論は、近年の個別指導塾の成長にも通じる実証的な教育効果を示しています。

3. メリルの第一原理
メリルの第一原理
ユタ州立大学のM・デイビッド・メリル教授が提唱した学習デザイン原則です。学習プログラムは以下の5要素を備えるべきとされています。

1.課題志向:
学ぶコンテンツを学習者が実際に直面している、または直面する可能性の高い課題の解決に役立つものから逆算して設定すること。

2.活性化:
過去の自分自身の知識や経験を活用し、学びとひも付けること。

3・例示:
学習したことが活用されている具体的な事例を示すこと。

4.統合:
学んだことを実務で使い、深く広く定着させていくこと。

5.応用:
学んだことを使ってみてフィードバックを受けながらさらに理解・活用していくこと。

私自身、メリル教授から学ぶ際に「tell me, show me, let me do it.」という言葉を繰り返し聞きました。これは旧日本海軍・山本五十六の「やってみせ、言って聞かせ、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ」と通じる普遍的教育原則とも言えます。

まとめ
インストラクショナルデザインは、学習者が成果を上げられる教育プログラムを設計・実施・評価するための実践的な方法論です。第二言語習得理論が学習過程の理解に焦点を置くのに対し、IDはその理解をもとに「学習効果を最大化する設計」に重点を置きます。

次回は、第二言語習得理論とインストラクショナルデザインが実際の英語学習でどのように適用されるべきかを解説します。

※1 熊本大学教授 鈴木克明氏 インストラクショナルデザイン―学びの「効果・効率・魅力」の向上を目指した技法― https://www.jstage.jst.go.jp/article/bplus/13/2/13_110/_pdf
※2 米インディアナ大学教授 マイケル・モレンダ氏 In Search of the Elusive ADDIE Model http://www.damiantgordon.com/Courses/DT580/In-Search-of-Elusive-ADDIE.pdf
※3 米・北コロラド大学教授 ナダ・アルドビー氏 ADDIE Model
http://www.aijcrnet.com/journals/Vol_5_No_6_December_2015/10.pdf
※4 教育学者ベンジャミン・ブルーム氏 The 2 Sigma Problem: The Search for Methods of Group Instruction as Effective as One-to-One Tutoring
http://web.mit.edu/5.95/readings/bloom-two-sigma.pdf

Q.048


40代 家電メーカー勤務

研修設計担当者として、第二言語習得理論とインストラクショナルデザインの違いを知りたいです

グローバル人材育成研修の担当者となり、研修設計の参考にするために過去のQ&Aを拝読しています。しかし「第二言語習得理論」と「インストラクショナルデザイン」の違いが理解できていません。それぞれの考え方と相違点について教えてください。

A.

結論:第二言語習得理論は「理学」、インストラクショナルデザインは「工学」です

第二言語習得理論は、学習者が第二言語をどのように習得するかを理解するための理論です。一方、インストラクショナルデザイン(ID)は、その理解をもとに学習効果を最大化する教育プログラムを設計・実施・評価する方法論です。言い換えれば、前者は「学習過程の解明」、後者は「学習成果の実現」に焦点を置いています。

グローバル人材育成研修の担当になった家電メーカー勤務方より「研修設計担当者として、第二言語習得理論とインストラクショナルデザインの違いを知りたい」というご質問を受け、2回にわたって、第二言語習得理論とインストラクショナルデザインの主な理論の歴史的展開について説明してきました。

今回は、その2つの考え方の違いについて解説します。

適用範囲の違い
第二言語習得理論は名前の通り、言語学習に特化しています。例えば、英語学習においても「会議でプレゼンできるレベル」と「ネイティブと流暢に会話できるレベル」の違いまでは明確に定義されていません。
一方、インストラクショナルデザインは、言語に限らずあらゆるスキルや態度の学習に適用可能です。学習目標の設定が出発点であり、例えば次のような具体的な目標を定めてプログラムを組み立てます。
・「3カ月後にドイツの国際見本市で自社製品を英語で説明・質疑応答できるようになる」
・「1年後にソムリエ世界大会に出場できるレベルの知識と技術を習得する」

理学と工学の違い
この違いは学問的アプローチの違いに由来します。
・第二言語習得理論=理学:学習過程や自然のあり方の真理を解明することが目的。科学的エビデンスに基づく研究ですが、仮説レベルの議論も多く含まれます。
・インストラクショナルデザイン=工学:学習者が成果を上げられるプログラム設計と実施を通じて社会課題を解決することが目的。実践的・応用的なアプローチです。
言い換えれば、「理学」が基礎研究なら、「工学」は応用研究に相当します。社会的課題の解決には、この両面のアプローチが必要です。

実務での活用例:英語学習におけるインプットとアウトプット
例えば、企業研修や個人の英語学習で「インプットとアウトプットの比率は?」という疑問があります。
・第二言語習得理論によれば、単なる一方向学習ではなく、相互交渉(インタラクション)やコミュニケーションを伴うロールプレイが有効です。
・インストラクショナルデザインでは、学習者の現在レベルと目標レベルを測定し、目標達成のためのプログラムを設計します。
その結果、必要なインプット・アウトプット量は個人差が大きく、一律に比率を決めることはできません。文法・語彙・発音などの基礎力が高ければ、必要なインプット量は少なくなる傾向があります。

まとめ:
第二言語習得理論を理解したうえで、インストラクショナルデザインに基づき学習プログラムを設計することが重要です。このアプローチは英語やグローバル人材育成に限らず、あらゆる研修プログラムに応用できます。

最後に、ID研究の第一人者である熊本大学・鈴木克明教授の著書『研修設計マニュアル:人材育成のためのインストラクショナルデザイン』(北大路書房)も参考になるでしょう。

Q.049


50代 IT・情報通信関連企業勤務

海外で仕事をしていますが、ディスカッションができません。詳細まで聞き取り、持ち帰らずその場で質問できるようにするにはどうしたらいいでしょうか?

用意して話す、ちょっと聞いて質問するということは可能ですが、インタラクティブ(双方向)に会話ができません。現在TOEIC リスニング&リーディング(L&R)テストのスコアは705点です。

A.

結論:リスニング力を軸に、実践的なシャドーイングと定型フレーズ暗記で会話力を強化しましょう

TOEIC L&R 705点を取得できていることから、文法や語彙の基礎力は十分です。つまり、英語を話すために新たな文法や単語を学ぶ必要はほとんどありません。課題は、相手の話を正確に聞き取り、瞬時に反応できる力にあります。これを伸ばすには、リスニング・シャドーイング・定型フレーズ暗記の3ステップが有効です。

1. リスニング力の強化
リスニングが十分でなければ、会話は成立しません。現在苦労されている一因は、学校や教材で学ぶ英語と、実際に話される英語の音の違いです。
例えば、“talk about”は実際には「トーカバゥ」と連結して発音されます。このような音の変化を「リンキング」と呼びます。他にも脱落や短縮など様々な音声変化があります。これを知らないと、英語を聞き取ることは難しいでしょう。
おすすめの教材としては、『5つの音声変化がわかれば英語はみるみる聞き取れる』(マイナビ出版)など、音声変化を体系的に学べる本があります。

2. シャドーイング:実際の会議を教材に
映画や市販教材でのシャドーイングも有効ですが、現在海外で仕事をされているとのことですので、実際の会議音声をシャドーイング教材に活用できます。
・会議を録音
・「Otter」などの文字起こしアプリでテキスト化
・テキストを見ながら音声を追い、発話を真似る

この方法の利点は3つあります。
1.実務に直結したフレーズや言い回しを学べる
2.会議内容の理解が深まる
3.専門用語や会社独自の表現も自分用教材として整理できる

3. スピーキング:定型フレーズで即応力を鍛える
実践的なスピーキングには、会議でよく使うフレーズを暗記することが効果的です。特に質問や確認、意見表明などのフレーズを重点的に覚えましょう。

例:「質問があります」と言いたいとき
1.Would it be possible to ask you something?(丁寧だが覚えにくい)
2.There’s something I’d like to ask.
3.May I ask you something?(覚えやすく即使用可能)

まずは1つのフレーズを完璧に使えるようにし、慣れてからバリエーションを増やすのが効率的です。
また、会議前に想定される質問や回答を英語で書き出し、メモとして持参することも実践的トレーニングになります。会議中にメモを見ても構いません。

4. 話法の工夫
英語でも日本語でも、まず結論を簡潔に伝え、その後に理由を述べる習慣をつけると、反応がスムーズになります。

まとめ:
・TOEIC 700点超のCFさんは、文法・語彙は十分
・課題は「リスニングと即時反応」
・会議録音のシャドーイング+定型フレーズ暗記+話法の工夫で、3~6カ月で双方向の会話が可能に

ぜひこの方法を試してみてください。実践を重ねることで、英語での会議は格段にスムーズになるはずです。結果を楽しみにしています。

Q.050


20代 メーカー勤務

TOEIC L&Rスコア500点台から、短期間で800点を獲得する学習方法を教えてください。

私の会社では、将来の幹部候補向けに英語でグローバル研修を行っています。英語力は必須で、事前研修として英会話レッスンもありますが、参加条件はTOEIC L&Rで800点を自己学習で取得することです。しかし、私のTOEIC L&Rスコアは500点台です。短期間で800点を獲得する学習方法を教えてください。

A.

結論:単語力と速読力に特化した学習で、短期間でもTOEIC 800点は達成可能

TOEIC L&R 500点台から短期間(数カ月)に800点を目指すには、英語力全体ではなく、スコアに直結する要素に集中することが鍵です。
TOEIC L&Rのスコアと特に相関が強いのは、「単語力」と「速読力(WPM)」の2つです。この2点を戦略的に強化することで、短期間でもスコアアップが可能です。

1. 単語力の強化
TOEIC L&Rで800点を目指す場合、目安として8000語の単語習得が必要です。

効率的な学習のポイント
・覚える順番は「使用頻度の高い単語」から
・仕事に使う単語よりも、テストスコアに直結する頻出単語を優先
・推奨教材:アルク社『究極の英単語』シリーズ、標準語彙水準SVL12000に基づきレベルを段階的に学ぶ

例:
まずは6000単語レベル(『究極の英単語 vol.2』)
習得後に次のレベルへ

この順序で学習すると、中級者であれば1000単語習得ごとに約100点アップが見込めます(高得点帯では伸びにくくなる点に注意)。

2. 速読力(WPM)の強化
TOEIC L&Rでは文章を一定速度で読めることが重要です。目安は次の通りです。

【目標スコアと求められるWPM】
・500点………………120WPM
・600~700点………150WPM
・800点………………180WPM
・900点………………200WPM

現在500点台の場合はおそらく120WPM程度ですので、180WPMまで引き上げる必要があります。

WPMを上げる学習法
・シャドーイング:英語音声を聞きながら即座に復唱
・音読:声に出して読む練習
・材料は自分が理解できる教材で、自然な速度の音声があるものを使用

リスニング・リーディングのプロセス
TORAIZ語学研究所フェローで、第二言語習得の第一人者・門田修平先生の本から引用したもの
シャドーイングと音読がWPM向上になぜ役立つのかを考える人もいるかもしれません。これには第二言語習得理論による科学的理由があります。

TORAIZ語学研究所フェローで、第二言語習得の第一人者・門田修平先生の本から引用したもの

第二言語習得の第一人者である門田修平先生によれば、リーディングとは、声を出す・出さないにかかわらず復唱をするものとされています。英語ニュースなどネイティブが話すスピードは200WPM程度。例えば英語のニュースをシャドーイングで復唱できれば、TOEIC L&Rで900点を取るのに必要な200WPMのスピードで英文を読むことが可能ということになります。

3. 過去問・模試で実践
学習開始から2カ月後には、過去問や模試をどんどん解きましょう。目安は10回程度です。

・パート7(長文読解):設問を先に読むなど、解法テクニックを活用
・テクニックの習得に時間をかけず、繰り返し実践で定着
参考教材やYouTube動画、短期講座も活用できます。

まとめ:
単語力:8000語を段階的に習得
速読力(WPM):180WPMを目標にシャドーイング・音読
過去問・模試:10回以上繰り返し、解法テクニックを定着

この3点を継続すれば、短期間でTOEIC L&R 800点は十分達成可能です。ぜひ計画的に取り組んでください。応援しています。