三木雄信に聞く!あなたのナゼ?に答えます!

Q.081


40代 重電メーカー勤務

生成AIが発達しても英語学習は必要でしょうか?

ChatGPTなどの生成AIが急速に普及し、コンタクトレンズ型ディスプレーや脳内イメージの可視化技術も開発されています。こうした技術が実用化されれば、もはや英語を学ぶ必要がないのではないでしょうか。英語学習を続けるべきか迷っています。

A.

結論:買い物や旅行での簡単な会話は不要になりますが、ビジネスや学問での英語習得の必要性は逆に高まります。イノベーションには対面コミュニケーションが不可欠で、リアルタイムで進む議論についていくには英会話力が必須です。抽象的な概念を伝えるには言語そのものが必要だからです。

日常会話は翻訳機で十分になる
「買い物や旅行での簡単な会話は学習不要になる」という点は、ほぼ確実でしょう。現在でも携帯型翻訳機を使えば、日常的な会話は十分に翻訳できます。今後は同等以上の機能がスマートフォンで使えるようになるはずです。

テクノロジー機器の普及パターンを見れば明らかです。1980年代、日本では「書院」などのワープロ専用機が使われていました。しかしパソコンの普及とワープロソフトの性能向上により、専用機は姿を消しました。

同じように、携帯型翻訳機ではなく誰もが持つスマホで世界中の人とコミュニケーションする時代が近づいています。実際、AIを内蔵し通話内容をリアルタイムで音声翻訳するスマホが既に発表されています。

ビジネスでは対面コミュニケーションが重要
一方で、ビジネスや学問の研究に使う英語習得は今後も必要です。確かに文章翻訳もAIの発達で飛躍的に向上しています。Google Scholarで海外の論文を見つけ、DeepL Proで日本語に翻訳することも可能です。

しかし英語をマスターすることが不要になるとは考えていません。イノベーティブな仕事や研究には、対面でのコミュニケーションが重要だからです。
その証拠に、コロナ禍が明けた現在、米国のビッグテック——Alphabet(グーグルの親会社)、Amazon、Meta、Appleをはじめ、出社を要請するIT企業が増えています。
本来、IT企業のエンジニアなら在宅勤務でも高い生産性を上げられるはずです。それでも各社が出社を求めている事実が、対面の重要性を物語っています。

リアルタイムの議論に翻訳は追いつかない
イノベーティブな仕事では、英語が話せるメンバーの中でスマホの翻訳アプリを見ながら会話するのは現実的ではありません。周りが流暢な英語で議論を進める中、1人だけ翻訳結果を確認してから発言しようとしても、会話のスピードについていけず発言の機会を失ってしまうでしょう。

今後、人間の脳内イメージを映像化する技術が開発されても、状況は変わりません。「すしが食べたい」という具体的な欲求なら、すしやすし屋のイメージを表示してコミュニケーションが成立するでしょう。

しかし抽象的な概念を映像で伝えるのは困難です。なぜなら英語話者は英語で、日本語話者は日本語で抽象的な概念を考えているからです。したがって抽象概念のコミュニケーションでは、言語を英語か日本語のどちらかに統一する必要があります。

まとめ:
口頭による英語のコミュニケーション力は、テクノロジーが進化してもますます必要になります。むしろ、グローバルなビジネス環境で活躍したいなら、その重要性は高まる一方です。ぜひ英語学習に積極的に取り組んでみてください。応援しています。

Q.082


20代 大学生

Netflixをシャドーイング教材として効果的に活用する方法はありますか?

リスニング向上のためNetflixをシャドーイング教材として使っていますが、ネイティブスピーカーの英会話が速すぎたり、知らない単語を調べるのに時間がかかったりしてイライラします。効果的に活用する方法はありますか?

A.

結論:Google Chromeの拡張機能「Language Reactor」を使いましょう。英語と日本語の字幕を同時表示し、フレーズごとに自動停止、単語にカーソルを当てるだけで意味を確認できます。教材選びでは、興味優先より自分の仕事に近いテーマの作品を選ぶと短期間で学習効果が上がります。

学習に便利な拡張機能「Language Reactor」
Google Chromeの拡張機能「Language Reactor」がおすすめです。これを使えば、字幕のあるコンテンツで日本語と英語字幕を同時に表示できます。
導入は簡単です。Googleで「Language Reactor」と検索し、Chrome ウェブストア内のページから「Chromeに追加」ボタンをクリックするだけ。基本機能は無料で使えます。

ただし注意点があります。Netflixをパソコンのブラウザーやテレビ、スマホアプリで視聴している方が多いと思いますが、Language Reactorはパソコンでのみ使用可能です。

無料で使える3つの強力機能
1.英語と日本語の字幕同時表示
通常のNetflixは1言語しか表示されません。英語音声や英語字幕で視聴中に日本語を確認したい場合、いちいち一時停止して巻き戻し、日本語字幕に切り替える必要がありました。Language Reactorならこの手間が不要です。

さらに画面右側のスイッチをオンにすると、約5ワードの字幕ごとに自動的に動画を停止できます。音声・単語・フレーズを一つひとつ確認しながらシャドーイングできるわけです(スペースキーで手動停止も可能)。

2.セリフの流れを先読み・振り返り
画面右側にセリフが一連の流れとして表示されます。セリフが終わって間がある場合、フレーズを先読みして準備できます。逆に聞き取れなかったフレーズを遡って確認することも可能です。

3.単語・熟語の即座確認
画面に表示される字幕の単語や熟語にカーソルを当てるだけで、日本語の意味が表示されます。わざわざ辞書を引く必要がありません。さらに表示画面上の「単語」タブをクリックすると、その動画で使われている単語を頻度順に表示できます。前置詞など基本語の下を見ていくと、その動画特有の専門用語が現れてきます。起業がテーマならビジネス用語、病院なら医療用語といった具合です。

有料版でさらに便利に
有料版では覚えたいセリフを保存して自分専用のフレーズ集を作成できます。また無料版の字幕は専門家が意訳している場合もありますが、有料版では直訳(機械翻訳)を表示可能です。

意訳は話の前後をつなげて自然に訳すため、使われていない単語を日本語化したり、逆にフレーズの単語を訳さず飛ばしたりします。英語学習では原文の意味を理解するため、直訳があった方が便利です。

教材選びの重要ポイント
興味のある面白い作品を選ぶのは継続の観点から悪くありませんが、短期間で学習効果を上げたいなら、自分の目標やキャリアに近いテーマの作品を見ることをお勧めします。

ビジネスパーソンなら、主人公がマーケターとして奮闘する「エミリー、パリへ行く」や、ロサンゼルスで豪邸を売買するオッペンハイム不動産を舞台にしたリアリティーショー「セリング・サンセット ~ハリウッド、夢の豪華物件」がお薦めです。

一方でアクション映画などはセリフが少なく、むしろアクションで表現される要素が強いため、シャドーイングには向きません。この点は留意してください。なお、Language ReactorはNetflixだけでなくYouTube動画の一部もサポートしているので、業務に関連するニュースなどを見てもよいでしょう。

現在はITが進化・普及し、学習環境は格段に向上しています。ぜひLanguage Reactorを活用してみてください。応援しています。

Q.083


40代 メーカー勤務

完璧でないと英語を話すのは恥ずかしいと思ってしまいます。割り切るにはどのような訓練が必要でしょうか?

日本人は「発音も文法も完璧でないと英語を話すのは恥ずかしい」と思い過ぎていると感じます。「正しく話すのではなく、通じればいい」と気持ちを割り切って、積極的に英会話をするには、どのような訓練が必要でしょうか?

A.

結論:訓練より「メタ認知」が重要です。自分を客観的に見つめ、「何を捨てて何を拾うか」を決めましょう。発音矯正は諦め、イントネーションとアクセントに注力する。シンプルで汎用性の高いフレーズを使い回す。中学英語の範囲で十分コミュニケーションは成立します。完璧を目指さず、自分に見合った合格点を設定することが鍵です。

メタ認知で英語学習を変える
日本人が英語を話せない理由の一つは、正しく話すことにこだわり過ぎている点です。しかしこの問題は訓練で解決するものではありません。英語で会話するスキルを身に付けるには、「言語の使用方法やコミュニケーションのあり方」を理解することが必要だからです。

そのためにまず、日本語と英語の違いを客観的に「メタ認知」することから始めます。
メタ認知とは、自分の状況を客観的に認識したり管理したりすることです。私は「自分の背後に意識が幽体離脱して背後霊になって自分自身を見つめている状態」と説明しています。メタ認知によって自分の思考や感情を観察し、理解を深めることで、より効果的な問題解決や学習が可能になります。

具体例を挙げましょう。英語の試験でがむしゃらに1問目から解こうとする状況は、メタ認知ができていません。一方で「簡単な問題から解いて、捨てる問題を決める」「問題ごとに時間配分を考える」「1問解くごとにスペルチェックをする」などの対策ができている状況は、メタ認知ができていると言えます。試験に没頭せず、一歩引いて考えられているからです。

日本人の前で英語を話すのが恥ずかしい理由
メタ認知の観点で、「発音も文法も完璧でないと英語を話すのは恥ずかしい」という日本人の思い込みについて深掘りしてみましょう。どういうときに、英語を話すのが恥ずかしいと感じますか。

日本人が同席する会議や打ち合わせで英語を話すときの方が、恥ずかしさを強く感じる方は多いのではないでしょうか。実は私自身も同じ経験があります。ビジネスの場で英語を使う際、ネイティブ話者の前よりも、日本人の前で話す方がずっと緊張していました。なぜなら、日本人同士の方が「英語力を評価されるのではないか」という意識が強く働いていたからです。

そこで私は決断しました。「難しい発音は自分のできる範囲で対応し、それ以上の改善は諦める」と。例えば"th"は発音できますが、"r"は自分ができる範囲で発音しようと割り切りました。

完璧を諦めて得たもの
成人してからの英語学習で発音を矯正することは簡単ではありません。発音矯正ばかりに力を入れていたら、それに多くの時間を費やしてしまい、英語の発話から遠ざかってしまいます。私は発音矯正の代わりに、英語のイントネーションとアクセントはできるだけ正確に言えるよう心がけました。

また、シンプルだけれど丁寧なフレーズを使い回しました。本当は同じ表現を繰り返すより、さまざまな表現を工夫する(パラフレーズする)方がいいのですが、その点は諦めました。
例えば「会議を始めましょう」は英語で"Let's get down to business"、"Let's get started"などいろいろ表現できますが、私は"Shall we get started?"に決め打ちしました。"Shall we"はビジネスシーンにおいてどのような相手でも違和感なく使え、汎用性が高いと考えたからです。

また、仕事相手に伝えておきたい内容は事前に英文でメモを作成しておくことで、どのような状況に陥っても自信を持って英語で話せるよう準備しておきました。

こうした考え方こそが、試験対策として挙げた「簡単な問題から解いて、捨てる問題を決める」に近いメタ認知です。

孫正義氏から学んだこと
私がメタ認知を理解し割り切れた理由の一つが、ソフトバンググルーブ創業者・孫正義氏のかばん持ちをした経験です。
1998年、25歳のときに初めて孫氏の米国出張に同行しました。米国にいるソフトバンク社員や出資先企業の幹部が話す英語は分からなかったのですが、孫社長の英語は全て理解できたんです。孫氏の話す英語はシンプルで、単語も文法もほぼ中学で学ぶ英語の範囲内でした。時折、中学で習わない単語が出てくることもありましたが、それは会計用語やIT用語であり、ほとんどが日本語化された外来語でした。

そんな孫氏の姿を見て、「発音も文法も完璧ではないと英語を話すのは恥ずかしい」と思う必要はないと気づきました。

自分なりの合格点を決める
自分が英語を話すとき「何のスキルを捨てて、何のスキルを拾うか」を決めることも重要です。取捨選択は人によります。発音を極めたい人もいれば、さまざまな言い回しを身に付けたい人もいます。
避けてほしい考えは「ただがむしゃらに、発音も文法も全て完璧にしないといけない」と思うことです。この考えに縛られると、試験のとき実力以下の点数しか取れなくなって悩む人も少なくありません。
メタ認知を用いて自分の英語力に見合った合格点を決め、それに合わせた英語学習を行えばいいのです。

まずはYouTubeに上がっている孫氏の英語スピーチ動画を見て、いま一度自分の英語について考えてみてください。応援しています。

Q.084


30代 食品メーカー勤務

人事部で英語研修を担当しています。どう設計すればよいでしょうか?

当社は海外市場開拓を進め、売上の海外比率50%超を目指しています。しかし社内の語学力が不足しており、英語研修の見直しが必要です。現在は昇進要件にTOEIC L&Rを取り入れ、海外赴任前に約3カ月の研修を実施していますが、赴任準備で受講者が集中できません。今後、英語研修をどう設計すればいいでしょうか?

A.

結論:ビジネスの基本「質・量・納期」を明確にしましょう。実際に海外で成果を出している社員の英語力を測定して目標レベルを設定、必要人数を算出し、3年計画で余裕を持った人数を育成します。TOEIC L&Rは選抜ツールとして使い、最終目標はVERSANTやTOEIC S&Wなどの実践的なテストで測定。この設計により投資対効果の高い研修が実現できます。

経営戦略と現場の距離
人事部で英語研修の設計を担当する方から、よく受ける相談です。経営陣が海外展開を決めても、現場がついていける体制が整っていないケースがほとんどです。経営と現場の温度差が、そのまま人事部門の悩みになっているわけです。

中途採用で語学力のある人材を獲得する手もありますが、長期的視点に立てば、社内の優秀な人材を次世代リーダーに育てることも欠かせません。こうした理由から、語学習得も含めたグローバル人材育成のための研修を考える企業が増えています。

米国で定着する研修設計の手法
研修設計には「インストラクショナルデザイン」という米国発の手法が有効です。学習の効果・効率・魅力を最大化するためのアプローチで、「ADDIE(アディー)」と呼ばれる5段階プロセスが軸になります。

分析(Analysis)→設計(Design)→開発(Development)→実施(Implementation)→評価(Evaluation)という流れを繰り返しながら、プログラムを改善していく仕組みです。この手法の最大の利点は、ROI(投資対効果)を数値で示せること。経営判断の材料として説得力が増します。

まず「質・量・納期」を固める
研修設計で最初にやるべきは、ゴールの明確化です。「どのレベルの英語力を持つ人材が、いつまでに何人必要か」——ビジネスの基本である「質・量・納期」をはっきりさせることが出発点になります。

多くの日本企業の英語研修で、この3要素が曖昧なまま進んでいることが根本的な問題です。

昇進要件としてTOEIC L&Rを導入しているとのことですが、この評価基準は経営戦略と本当に合致しているでしょうか。「とりあえず800点あればいい」という発想では不十分だと、あなた自身も感じているのではないでしょうか。

成功者の英語力を数値化する
解決の糸口は、実際にグローバルで成果を出している人材の英語力を可視化することです。

手順はこうです。まず社内で海外勤務で実績を上げている人を見つけ、詳しく話を聞きます。同時に、その人に「実務レベルの英語力」を測るテストを受けてもらいましょう。VERSANTスピーキングテストやTOEIC S&Wなど、受験コストや手間を考慮して選べばOKです。

これで「目指すべき英語力」の具体的な数値が手に入ります。

次に「そのレベルの人材が何人必要か」を計算します。売上目標や拠点数などの計画から逆算すれば、必要人数は見えてくるはずです。

育成には最低3年かかる
見落としがちなのが「育成期間」です。グローバル企業の多くは中期経営計画をベースに、3年スパンで人材育成を計画しています。海外赴任が決まった後に急いで3カ月弱の英語研修を行うのは、少々手荒な施策だと言えます。さらに配置転換や退職者も想定する必要があります。そのため研修スタート時点では、最終的に必要な人数の2〜3倍を受講させる計画が現実的でしょう。

こうして「質」と「量」と「納期」の3つが固まります。

TOEIC L&Rの正しい使い方
では受講者をどう選ぶか。クライアント企業の多くは、業務実績に加えてTOEIC L&Rで一定スコアを条件とし、最終的に上司推薦や人事選抜で決めているようです。TOEIC L&Rは「研修参加の入口テスト」として機能すると考えればよいでしょう。

選抜後、全員に海外活躍組と同じ実践的英語力テストを受けてもらいます。そうすれば現状とゴールの差が数値で明確になり、具体的な育成計画が立てられます。

複数事業者で競争原理を働かせる
ここまで整理できれば、外部の研修事業者に研修の諸条件を示してコンペを実施できます。また1社に絞らず、複数社に発注して毎年結果を比較する方法も有効です。年度ごとに実績に応じて発注比率を調整すれば、よりROIが高い研修事業者を選定することも可能になるでしょう。

インストラクショナルデザインは研修分野においてよく使われる手法ですが、考え方自体はビジネスの基本そのものです。ぜひ自信を持って新しい研修プログラムを企画してください。応援しています。

Q.085


30代 IT企業勤務

どうすれば英語での雑談力が上がるでしょうか?

米国人との日常会話は仕事の英語より数百倍、数千倍難しいと感じます。外国の人と食事をするときに黙々と食べてしまいます。どうすれば雑談力が上がるのでしょうか?

A.

結論:日常会話が難しいのは「共通のコンテクスト(文脈)がない」「型やゴールがない」ためです。対策は2つ。自分から話題を振って会話の主導権を握ること、そして質問中心で相手に話させることです。得意な定番テーマを3つ準備し、5W1Hのオープンクエスチョンを多用すれば、受け身にならず会話をコントロールできます。

ビジネス英語より難しい本当の理由
ネイティブ話者との雑談がビジネス会話より難しいのは、多くの人が実感していることでしょう。
最大の要因は「共通認識の欠如」です。IT業界で働いていれば、生成AIやプロジェクト管理ツールの話題は誰とでも通じます。専門用語を一から説明する必要はありません。

ところが雑談となると状況が一変します。米国人の大半が熱狂するアメリカンフットボールも、日本人にはルールすら馴染みがありません。
2024年2月のスーパーボウルは、1969年の月面着陸中継に次ぐ史上2番目の視聴者数を記録しました。米国では推計1億人以上が視聴した国民的イベントです。しかし日本人の多くは「テイラー・スウィフトが日本公演後に恋人のケルシー選手を応援しに米国へとんぼ返りした」というワイドショーネタを知っている程度でしょう。

「米国あるある」を知らないと深まらない
さらにコンテクストを共有するには、米国で生活する人の多くが知っている「米国あるある」への理解も重要です。

例えば米国では「DMV(車両管理局)」は「待ち時間が長くて大変な場所」として知られています。いつも長蛇の列ができており、運転免許の手続きをした人の多くはその過酷さを痛感しています。このため骨が折れるようなサービスを経験したとき「あそこのサービスはDMV並みだ」なんて言いますが、DMVの実情を知らない人にはこのニュアンスは伝わりません。

ビジネス会話には「型」と「ゴール」がある
日常会話が難しいもう一つの理由は、「コミュニケーションの目的」が異なる点です。仕事の会話には一定の「型」と「ゴール」がありますが、日常会話にはそれがありません。

営業担当者として企業に商品を売り込むときは、「課題ヒアリング→提案→条件交渉→クロージング」という型があります。ゴールも明確です。使う単語やフレーズも業界特有のものに限られます。

しかし日常会話では話が急に終わったり脱線したりします。アメリカンフットボールから始まって途中でテイラー・スウィフトに変わることも当たり前です。
さらに仕事で使う英語は単語もフレーズも数が限られていますが、日常会話ではかなり砕けています。「テイラー・スウィフトとアメリカンフットボール選手が付き合っている」はスラングで"They are an item"と表現できます。「an item」は日本語の"カップル"くらいのニュアンスですが、英語が流暢でない日本人だと会話についていくのは難しいでしょう。

こうした壁があるため、ビジネス英語ができる人でも雑談になると途端に黙り込んでしまうわけです。

対策1:会話のテーマで主導権を握る
では我々のような英語のネイティブ話者でない人はどう対応すればいいのでしょうか。重要なポイントは2つです。

まず1つ目は「テーマの設定を会話の相手に任せないこと」です。雑談するときはまず、自分から話題を振ってしまうのです。
そのために、自分の得意とする日常会話のテーマをいくつか持っておくのがポイントです。3つ程度の定番テーマと時事テーマを持っておくことをお薦めします。
定番テーマには「ゴルフなどの趣味としてのスポーツ」「休暇での旅行の経験」「家族について」などがあります。もちろんこれら以外に自分が語れる内容なら何でも構いません。事前に単語やフレーズを押さえて、自信を持って話せることを準備しておくことが重要です。質問を受けた場合も回答できるよう、質疑応答も少し考えておきましょう。
時事テーマなら今だと「物価高」が普遍的で会話が発展しやすいです。ただし政治や宗教については避けるのが望ましいです。特に米国の大統領選挙についてはセンシティブな話題なので避けましょう。日常会話ですから、わざわざ波風を立てる必要はありません。

対策2:質問中心で相手に話させる
2つ目は「できる限り自分から質問をし、相手に話をさせること」です。相手の話を要約しながら「それでどうなったの?」「なぜそう思ったの?」と深掘りしていきます。このとき「イエス・ノー」で終わる質問ではなく、「いつ・どこで・誰が・何を・なぜ・どのように」という5W1Hを使って答えるような質問を投げかけましょう。相手は気持ちよく話し続け、あなたは聞き役に徹しながら会話をコントロールできます。

要するに「守りの姿勢を捨てる」ことが全てです。
手持ちのネタに誘導できればベスト。難しければ質問攻めで切り抜ける。ビジネス会話ができているなら、準備次第で雑談も同じように対応できます。

恐れずに挑戦してください。応援しています。

Q.086


20代 メーカー勤務

英語を速く読むための勉強法はありますか?

英語を速く読むために、一瞬で目に入る単語量を3語ではなく5語などに増やしたいです。自分が興味のある分野の記事を毎日たくさん読む勉強法しか思いつかないのですが、他の方法はあるのでしょうか?

A.

結論:3つのテクニックがあります。「スラッシュリーディング」で複数の単語をまとめて前から読む、「スキャニング」で必要な情報だけを抽出する、「スキミング」で全体構造を把握してから段階的に読む。教材は自分の実力か、それ以下のレベルを選び、継続して大量の英文を読むことが重要です。AI翻訳は補助として使い、最終的には自力で読めるよう訓練しましょう。

スラッシュリーディングで視野を広げる
1つ目は「スラッシュリーディング」です。1単語ずつ読むのではなく、複数の単語をまとめて読んでいく方法で、読み返すことなく英文を前から後ろへ流れるように読むテクニックです。

文にスラッシュを入れながら読みます。例えばこんな感じです。

I sent /a new book written in English /for my niece /who lives in Hokkaido.

スラッシュを入れる位置には一般的なルールがあります。目的語や補語の直前、疑問詞節やthat節の直前、関係詞の直前、形容詞の直前、副詞の前後、接続詞の直前、カンマ・コロン・セミコロンの直後などです。

ただし必ずしもルール通りに切る必要はありません。むしろ、一瞬で把握できる範囲をわざわざスラッシュで切るのは非効率です。慣れてきたらスラッシュを入れる数を可能な限り減らしましょう。その方がより速く読めるようになります。

教材選びのポイント
指摘の通り、自分が好きな分野でやることは大変良いことです。速く読めるようになるには、継続して大量の英文を読むことが大事だからです。

ただし難しすぎる単語や文法が使われている教材は、スラッシュリーディングに向いていません。分からない単語や文法が出てくる度に調べていたら、速読の練習になりませんよね。スラッシュリーディングの観点で教材を選ぶなら、自分の実力か、それ以下のレベルの英文が望ましいのです。

スキャニングで必要な情報だけを抽出
2つ目のテクニックは「スキャニング」です。これは、文章全体を丁寧に読むのではなく、自分が必要とする情報だけを素早く拾い出す方法です。試験対策に役立つだけでなく、実務で大量の英文資料を処理する際にも非常に有効です。

具体的には人名や固有名詞、年号などの数字など、スキャンするためのキーワードを決めます。これらの単語は英文の中でも目立ちます。固有名詞は頭文字が大文字で表記され、数字もすぐに判別できるため、探しやすい特徴があります。文章全体の中からこうしたキーワードを見つけ、その前後を読むことで、関連する情報を短時間で効率よく把握できます。

スキミングで全体像を掴む
3つ目のテクニックは「スキミング」です。これは英文全体の構造をつかみながら、効率的に内容を読み取る方法で、特にアカデミックな論文を読む際に効果的です。

やり方はまず、文章のタイトルやパラグラフの見出しに目を通します。論文の場合は冒頭の要約(abstract)を読むのがおすすめです。これだけで文章全体のおおまかなテーマや構成を把握できます。

次に、本文の最初のパラグラフと最後のパラグラフを確認しましょう。多くの場合、冒頭にはテーマ設定が、最後には結論が示されています。これで文章の全体像を効率的に理解できます。

さらに必要に応じて、その他のパラグラフを読み進めます。全てのパラグラフを読む必要はありません。各パラグラフの冒頭部分を読んで文章全体の構造を把握しながら、関連ありそうなところを優先し読み進めましょう。

AI翻訳は補助ツールとして活用
質問への直接的な回答ではありませんが、AI翻訳ソフトを活用して文章の大意や構造をつかみ、そのうえで英文を丁寧に読む方法も有効です。いわば、スキャニングやスキミングをAI翻訳ソフトと協力して行うイメージです。
ただし完全にAI翻訳ソフトに依存して自分で読むことを止めるのは危険です。専門的な分野に関してはその訳が間違っていることも多いからです。あくまでサポートツールとして活用し、ご自身で読み解く力を磨くことが大切です。

ここまでご紹介した3つのテクニックを組み合わせながら、最終的には自分の力で英文をスピーディーに理解できるよう、ぜひ取り組んでみてください。応援しています。

Q.087


20代 メーカー勤務

金銭的余裕がありませんが、最速で海外部門へ異動できる英語力をつける方法を教えてください。

入社3年目で、将来は海外事業部門や海外支店への異動を希望しています。奨学金返済中で金銭的余裕がありませんが、最速で英語をマスターする方法を教えてください。

A.

結論:まず社内の異動条件を確認しましょう。TOEIC800点以上が条件なら、独学用教材で「単語力」「文法力」「リスニング・速読力」「試験テクニック」の4点を集中強化します。スコア条件がなければ、中学英語を3カ月で復習してから英会話学習へ。教材は自分の仕事や興味に関連するものを選び、計画的に進めることが成功の鍵です。

まずゴールと条件を明確にする
英語学習で最も重要なのは、ゴールと期限を決めることです。あなたのゴールは社内の海外関連部署への異動ですね。まずはその要件を確認することが第一歩です。

多くの企業では「TOEIC L&R 800点以上」といった数値基準を設けています。中には英語面接を課す企業もあるでしょう。いずれにしても、まずテストで基準スコアを突破することが肝心です。基準点をクリアできなければ面接にたどり着けない可能性が高く、いくら英会話力があっても意味がありません。

もし会社の異動条件に「TOEIC L&Rで800点以上」という項目があり、まだそのスコアが出ていないなら、まずはTOEIC対策に絞って学習しましょう。

独学でTOEIC800点を目指す4つのポイント
短期間でTOEIC L&Rで800点以上を取得するには、必ずしもスクールに通う必要はありません。非常に有用な学習教材が数多くあるからです。攻略すべきは4つの領域です。

1.単語力:努力が最も報われる分野
1000単語覚えれば100点アップするといわれます。『キクタンTOEIC L&Rテスト』(アルク)なら、目標スコア別に500・600・800・990と段階が分かれており、無駄なく学べます。

2.文法力:受験英語とは別物
大学受験の文法知識をそのまま使っても点数は伸びません。TOEIC特有のパターンを押さえる必要があります。『TOEIC テスト英文法 プラチナ講義』(ジャパンタイムズ)が的確です。

3.リスニング&速読:同時に鍛える
『TOEIC L&Rテスト出る語句1800』(コスモピア)は、ショートストーリーを使って両方のスキルを効率的に伸ばせます。

4.試験テクニック:知らないと損をする
TOEICには独特の引っ掛けパターンがあります。時間配分も重要です。『新形式問題対応 TOEIC テスト 直前対策模試』(語研)は自己分析シート付きで、弱点が見える化できます。

TOEIC条件がない場合の学習法
もし異動を希望する部署の選考基準に「TOEIC L&Rスコア」が含まれていないのであれば、無理にTOEIC対策を行う必要はありません。ただし、英会話の習得に語彙や文法が不要というわけではありません。

中学レベルの単語や文法が身についていない状態で英会話レッスンを受けても、なかなか話せるようにはなりません。受講料が無駄になるだけです。まずは基礎固めとして、中学英語を3カ月程度で復習・習得することをおすすめします。

教材としては『中学英語をひとつひとつわかりやすく。改訂版』(学研プラス)が最適です。シンプルな解説と豊富な練習問題があり、独学でも取り組みやすい構成です。さらに語彙力強化には、同シリーズの『中学英単語をもう一度ひとつひとつわかりやすく。改訂版』が効果的です。天気やスポーツといったテーマごとに整理されているため、関連付けて覚えやすいのが特長です。

まずはこの2冊を使い、3カ月で基礎を一気に仕上げましょう。そのうえで英会話学習に取り組めば、確実に成果が出やすくなります。逆に、すでに中学レベルの英語をマスターしている方やTOEICで400点以上のスコアを持つ方であれば、このステップは不要です。

教材選びと計画の立て方
英会話力を伸ばすには「シャドーイング」「パターンプラクティス」「会話レッスン」の3本柱が必要です。ただし1つ気をつけてほしいことがあります。
どの学習方法であっても、教材は必ず「今の仕事に関連するもの」か「将来やりたいことに関連するもの」を選んでください。興味を持てないと学習へのモチベーションを維持することは難しいためです。

計画は週単位で管理する
教材を選んだら、次は現実的な学習計画を立てます。
1週間で確保できる学習時間を計算し、その時間で進められるページ数を確認してください。そうすれば教材を完了するまでの期間が見えてきます。
重要なのは「計画の見直し」です。最初の計画通りに進むことは稀です。柔軟に修正しながら進めていきましょう。

独学で挑戦してどうしても壁にぶつかったら、英語コーチングという選択肢もあります。まずは自力で試してみてはいかがでしょうか。

Q.088


20代 証券会社勤務

久しぶりに英語を学び直したいです。どう学習すればよいですか?

単語や文法は学校で学んだのに、社会人になった今、なぜそのスキルを生かせないのでしょうか。久しぶりに英語を学び直したいので、どう学習すればいいか、また単語や文法はどの程度のレベルが必要か教えてください。

A.

結論:単語と文法を完璧に覚えても英会話はできません。重要なのは「コロケーション(よく一緒に使われる単語の組み合わせ)」を経験を通じて学ぶことです。AIの翻訳進化が証明しています。学習法はシャドーイングとパターンプラクティス、そして英会話レッスン。単語と文法は中学レベルで十分です。

AI翻訳が教えてくれること
社会人が学生時代の知識を生かせない理由を、翻訳技術の進化から考えてみましょう。
ChatGPTやDeepLのような翻訳サービスは、今や驚くほど自然な翻訳を生み出します。その成功の秘密は何か。実は「単語や文法を完璧に覚えさせる」という方法を捨てたことにあります。

初期のコンピューター翻訳は、品詞や活用形をタグ付けした大量の単語と文法を学習させる手法でした。しかし長文になるほど、翻訳が不自然になりました。単語と文法だけでは違和感のない文章を再現できなかったのです。

文法では説明できない違和感
日本語で考えてみましょう。

警察の取り調べ室での会話です。
刑事:「お前が犯人と分かっているんだ。これが証拠だ」
容疑者:「すみません。私がやりました」

この「私が」を「私は」に変えると、多くの人が違和感を持つはずです。助詞の「は」と「が」は似た働きをしますが、この場面では「が」でないと不自然です。この違和感は文法だけでは説明できません。

英語にも同じ現象があります。「コロケーション」と呼ばれる、特定の文脈でよく一緒に使われる単語の組み合わせです。大雨は"heavy rain"と言いますが、"strong rain"とは言いません。文法的には正しくても、使われないのです。

ChatGPTやDeepLは、こうしたコロケーションを大量に学習しています。その結果、長文でも学習したパターンを基に、文脈に合ったフレーズを選び出して自然な文章を生成できるようになりました。
記憶力においては人間より遥かに優れているコンピューターでさえ、単語と文法だけではダメだったのです。人間が同じことをやってもうまくいかないのは当然でしょう。

子どもの言語習得とAIの共通点
興味深いことに、子どもが母語を学ぶプロセスとAIの学習方法は似ています。
第二言語習得論では、このプロセスを「用法基盤モデル」と呼びます。言語の習得・使用は「単語単位だけでなく表現の単位でも行われる」という考え方です。
用法基盤モデルでは、言語の使い方や意味は経験を通して学習していくとされています。言語能力は、経験による反復や多様性のある使い方を経験することで促進されるのです。

また、言語はパターンとパターンの組み合わせによって表現されるとも考えられています。様々な文脈や状況に対応して、既存のパターンやフレーズを適切に組み合わせることで相手に意味を伝えているわけです。

つまり言語習得とは、特定の表現や構文が繰り返し使われる経験を通して、表現方法や文法的な機能を理解し、さらにそれを新しい文脈に適用して新たな表現ができるようになることなのです。この学習プロセスは、AIのそれと本質的に似ています。

実践的な学習法
では、日本人が用法基盤モデルをベースに英語を学ぶにはどうすればいいか。
コロケーションをインプットするには「シャドーイング」と「パターンプラクティス」が有効です。アウトプットは英会話のレッスンを通して高められます。

英会話の学習法やシャドーイング、パターンプラクティスについては、過去のQ&Aでも解説しています。ぜひあわせてご覧ください。※リンクはってください

Q&A「TOEIC L&Rが高得点でも英語を話せない場合は、どのような学習が必要ですか?
Q&A「Netflixをシャドーイング教材として効果的に活用する方法はありますか?
Q&A「リスニングはできるのに話せません。どうすれば流暢に話せるようになりますか?

中学英語で十分な理由
最後に「単語や文法はどの程度のレベルが必要か」という質問に答えます。
基本的に、単語や文法は中学英語のレベルに達していれば十分です。そのレベルであれば、自分が英語を使うシチュエーションで実際に使われる可能性のある会話を使って、そこで使われるコロケーションをなるべく多く学ぶほうが、よほど大切なのです。

単語や文法のレベルは中学英語程度で構いません。あとは自分が目指す学習の到達レベルと時期を決め、そこから逆算してシャドーイングなどによる学習計画を考えてみてください。応援しています。

Q.089


20代 IT企業勤務

リスニングはできるのに話せません。どうすれば流暢に話せるようになりますか?

半年ほどシャドーイングを続け、リスニングはできるようになりました。頻出フレーズも暗記していますが、どうしても考えてしまい「間」が入ったり「えーと」と言ったりしてしまいます。VERSANTテストでも「流暢さ」のスコアが低く、総合点が40点前半で推移しています。どう学習すれば流暢に話せるようになるでしょうか?

A.

結論:「パターンプラクティス」が答えです。覚えたフレーズの一部だけを変えて話す訓練を徹底しましょう。日本語の会議中でも頭の中で英語に同時通訳し、フレーズの単語を入れ替える練習を繰り返します。脳が処理する要素が減り、リアルタイムで発話できるようになります。

VERSANTが「流暢さ」を重視する理由
VERSANTスピーキングテストのスコアが伸び悩む理由が「流暢さ」という方は少なくありません。
その背景の一つに、VERSANTテストでは「流暢さ」を厳しめに評価していることがあります。長めの「間」や、「あー」「えー」などのフィラー音が入ると、流暢さのスコアが大きく低下する傾向があります。質問が終わったら瞬時に自信を持って話し始めることが、高得点を狙うコツです。

VERSANTがこれほど流暢さを要求する理由は、現実の英語ミーティングでも即時対応が望ましい場面が多いためでしょう。ですから流暢さはVERSANT対策としても現実問題としても重要です。

文法でもフレーズ暗記でもない答え

では流暢さを改善するためにどんな訓練をすべきか。
答えは「もっと文法を学ぶ」でもなければ「もっとフレーズを覚える」でもありません。流暢さの改善に最も必要なのは、「自分の知っているフレーズの一部を変えて話をするトレーニングを徹底する」ことです。このトレーニングを「パターンプラクティス」と言います。

パターンプラクティスの実践法
TORAIZでは、学習者一人ひとりの目標に合わせて「実務でそのまま使えるフレーズ」を覚えることを推奨していますが、それはパターンプラクティスを前提としているためです。

例えばプロジェクトマネジャーであれば、次のような表現を習得することが効果的です。
The due date of this task is next Monday.
(このタスクの締め切りは来週の月曜日です)

まずは、このフレーズを何も考えずに口から出てくるレベルまで繰り返し練習してください。「一語ずつ思い出しながらなんとか言える」状態では、実務で即座に使える英語とは言えません。自信を持って、一息で言えるようにすることが重要です。
そしてスムーズに言えるようになったら、実際の場面で使ってみましょう。英語の会議に限らず、日本語の会議中に試しに口にしてみるだけでも構いません。実際の業務シーンに結びつけることで、表現が定着しやすくなります。

日本語会議での頭の中トレーニング
おすすめの方法は、日本語で話したり資料を作ったりしている際に、頭の中で同時通訳を行い、すべての情報を英語に置き換えることです。
このとき、元のフレーズの一部を実際のシチュエーションに合わせて柔軟に変えていくのが「パターンプラクティス」です。

例えば、覚えたフレーズが「The due date of this task is next Monday.」だったとします。ある場面で上司から「この表を金曜日までに作っておいて」と指示を受けた場合、フレーズの一部を置き換えて「The due date of this chart is next Friday.」と英語に翻訳します。実際に小さく声に出しても、心の中で思うだけでも構いません。

こうして、朝起きてから寝るまで、自分の行動や認識するすべてを英語で表現する習慣をつけるのです。

なぜパターンプラクティスで流暢になるのか
このようなパターンプラクティスをすることで英語の流暢さは飛躍的に向上します。
理由は、考える要素が減るためです。先ほどの例で見てみましょう。

覚えたフレーズ: The due date of this task is next Monday.
実際に言ったフレーズ: The due date of this chart is next Friday.

比較すると、task→chart、Monday→Fridayの2カ所のみが入れ替えられています。

実は、人間の脳が一度に処理できるのは7要素前後までと心理学の研究で明らかにされています。
脳の情報処理能力の限界については、過去のQ&A「これまで大学受験や資格取得のために英語を学習してきました。文法と単語には自信があり、メールは書けるのですが、話そうとすると口から英語が出てきません。どうすればスラスラ話せるようになりますか?」をぜひご覧ください。

「The due date of this task is next Monday.」の文を見ると、単語だけで9つの要素があります。しかし実際に口に出す際には、これらの単語を正しい順序で並べるだけでなく、頭の中にあっても口に出さなかった単語や、発音や文法に関連する細かい要素も関わってきます。つまり、短い1フレーズであっても、細かく分解すると数十の要素が組み合わさってできているのです。
このため、発話のたびに全ての要素を一つひとつ組み立てて構文していたのでは、リアルタイムに処理することはほぼ不可能でしょう。

一方で、覚えたフレーズの一部だけを入れ替える場合、脳内で処理する要素が少なく済みます。例えば、「taskの部分を入れ替える」と考えれば1要素、「入れ替える単語をchartにする」と考えればもう1要素。「曜日のMondayも変えよう」と考えれば1要素、「Fridayにしよう」と考えればさらに1要素、合計で少なくとも4要素です。

単語が9つの文章を考えて口に出すよりもずっと少ない要素で済むため、リアルタイムでの処理が可能です。さらに、一部の要素だけを入れ替えるパターンプラクティスを繰り返すことで、入れ替え処理の速度をさらに高めることもできます。

実務に即したフレーズ選びが鍵
パターンプラクティスを行う際に重要なポイントは、実際に自分が置かれる可能性のあるシチュエーションで使えるフレーズを覚えることです。英語学習のゴールを明確にし、そのゴールに合った教材を選ぶのは、実務を通じてパターンプラクティスの効果を最大化するためでもあります。

ゴールを明確にして適切な教材を使い、実務の中で繰り返しパターンプラクティスを行えば、3〜6カ月以内にグローバルビジネスで必要な英語力やスコアを確実に伸ばすことができるでしょう。応援しています。

Q.090


40代 不動産会社勤務

小学生低学年の子どもには、どのような英語学習法が有効ですか?

小学生低学年の子どもに将来、英語で苦労させたくないと考えています。簡単な英語を自分が教えていますが、集中力がないからか、なかなか身に付きません。小さい子どもが英語を習得するために、どのような学習法が有効でしょうか。また親はどのような手助けができますか?

A.

結論:低学年で最も避けるべきは、勉強を強制して英語嫌いにすることです。「教える」より「英語環境をつくる」発想に切り替えましょう。日本のアニメを英語吹き替えで見せるなど、自然に触れる時間を増やします。本格的に習得させたいなら、他の習い事を絞って英語学習に集中するか、中高で2年程度の留学を視野に入れる戦略が必要です。

身につかないのは当然
その悩みはよく分かります。ただし、なかなか身に付かないのは当然です。
なぜなら第1言語でさえ、周りの人や環境との関わりによって視覚・聴覚情報を1年分ほどインプットしてようやく「パパ」「ママ」と片言で話し始めるからです。

個人差はありますが、犬を「わんわん」、うどんを「ちゅるちゅる」と言う、いわゆる赤ちゃん言葉を経て、流暢かつしっかり話せるようになるのも2歳前後からです。それまでの期間に、子どもは周囲の人たちとコミュニケーションを取ったり、テレビや動画などを見たりすることで言語を学んでいきます。つまり第1言語を学ぶ環境に数千時間身を置くことでやっとマスターできるのです。

これに比べると「親が意図的に確保した学習環境」だけでは英語を学ぶ時間は少なく、効果が上がらないのは当然です。その上、子どもがいやいや学習しているなら、英語も勉強も嫌いになってしまうリスクがあります。

「教える」より「環境をつくる」
ぜひ取り組んでほしいのは、「勉強を教えるのではなく、家庭の中で英語を学べる環境をつくること」です。
NetflixやPrime Videoなどで配信されている日本のアニメの中には、英語の吹き替えで配信されているものがあります。できる限りそのような作品を見せるようにしましょう。もちろん子どもが興味を持てば、海外で作られた作品でもいいでしょう。
ただしこれは子どもが小学校に入学する前に始めてください。重要なのは「学校から帰ってきてからの過ごし方」です。この時間で子どもが英語を学習する環境をつくることが重要です。

日本と中韓の子どもの違い
実は、私は英語コーチング事業を始める前に、子ども向けの英語教室を運営していたことがあります。採用していた英国人講師の多くは日本だけでなく、中国や韓国でも子ども向けに英語を教えていました。
彼らが口をそろえて言ったある話に、私は驚きました。

「日本人の子どもの大半は、週に1回しか英語教室に来ない。サッカーやプール、バレエ、ピアノなど他の習い事で忙しすぎるため、英語をマスターすることなく中学受験に取り組んでいた。一方で中国や韓国の子どもは毎日英語教室に来ており、ある程度英語が話せるようになってから中学受験のための勉強を始めていた」と言うのです。

戦略を立てる=何を捨てるか決める
子どもが英語を習得するには、親自身が教育方針を明確にし、戦略を立てることが重要です。ここでいう「戦略」とは、何を優先するかだけでなく、「何をしないか」「何を捨てるか」を決めることでもあります。

ひとつの戦略として、中国や韓国のように「他の習い事をあきらめ、英語学習に集中する」方法があります。毎日学習時間を確保するために、英語教室だけでなく、英語を使える学童保育や、英語で活動するスポーツ教室なども活用できます。子どもの興味や関心に合わせて、取り組み方を検討するとよいでしょう。

もうひとつの戦略は、他の習い事も続けつつ、一定の割合で英語学習を行い、中学・高校時に2年間ほど海外留学する方法です。普段は学習時間が限られる分、留学でまとまった期間を英語習得に充てる形です。

留学を選ぶ場合は、日本を2年ほど離れることになるため、中学・高校受験をどうするかの判断も必要です。また、円安傾向により費用負担が大きくなる点も考慮する必要があります。親としては悩ましい選択ですが、子どもの将来を見据えた戦略的な判断が求められます。

英語がすべてではない
子どもに英語を身につけさせたいと本気で考えるなら、親には「強い意志」と「経済的な準備」が必要です。
ただし、英語を学ぶことが必ずしも子どもの将来の幸福につながるとは限りません。例えば、ピアノが好きで才能がある子どもであれば、その分野でスキルを伸ばす道もあります。

まずは家庭でできる範囲で英語環境を整えつつ、子どもの様子を見守りましょう。そのうえで、長期的な視点で英語学習の計画を立てることをおすすめします。