三木雄信に聞く!あなたのナゼ?に答えます!

Q.091


30代 金融機関勤務

米国人にまくしたてられてしまい会話が成立しませんでした。どう対処すべきでしょうか?

日本人とコミュニケーションを取ったことがなさそうな米国人とオンライン会議をしたとき、相手からまくしたてられてしまい会話が成り立ちませんでした。オンラインや電話で会議をする際に、英語でうまくコミュニケーションするための交渉術やマインドセットを知りたいです。

A.

結論:最も大事なのは「分からない」とはっきり伝えることです。これは「方略的能力」というコミュニケーション言語能力の一つです。ポイントは2つ。確認する能力を磨くこと、そして事前準備を徹底すること。想定質問と回答のメモを用意し、チャット機能で質問を受け付ける、Zoomの文字起こし機能を活用するなど、テクノロジーも味方につけましょう。英語力ではなくコミュニケーション能力で勝負するマインドセットが鍵です。

オンライン会議が生んだ新しい課題
オンライン会議の普及で、思わぬ壁に直面する人が増えています。
以前なら海を越えての打ち合わせには相応の準備が必要でしたが、今やワンクリックで世界中と繋がれます。その結果、日本のビジネス文化を全く知らない相手と、いきなり対峙する場面が増えたのです。

黙り込むのが最悪の選択
こうした状況でどう対応すべきか。
答えは明確です。「理解できていません(Could you repeat that?)」とストレートに伝えることです。
ところが多くの日本人は恥ずかしさから、このシンプルな一言が言えません。結果、黙り込んでしまう。実はこれが最悪の選択なのです。

「聞き返し」は立派なスキル
第二言語習得論では、「聞き返し」をコミュニケーション言語能力の1つと定義しています。このように言語能力だけでなく他の能力を使いこなしてコミュニケーションする能力を「方略的能力」と呼んでいます。

コミュニケーション言語能力モデル
一般的に「英語力」というと、語彙や文法、リスニング、スピーキングを思い浮かべるでしょう。しかしこれらのスキルはコミュニケーション言語能力の一部でしかありません。ビジネスで成果を出すには、方略的能力こそが鍵を握ります。

方略的能力はコミュニケーション言語能力を高めるために必要な能力の1つです。

方略的能力を高める2つのコツ
1. 要約して確認する
相手の話をおおよそ掴めているが、100%ではない——そんなとき使える技術です。
例えば製品の納期について議論している場面。「つまり、今月中に原料を調達できれば間に合う、という理解で合っていますか?」などと確認を入れます。
これで話の流れを整理しつつ、自分の理解をすり合わせられます。聞き流して誤解したまま進むより、遥かに建設的です。

2. 事前に準備を徹底する
オンライン会議は試験ではありません。カンニングペーパーを堂々と使えます。
プレゼンする側なら、想定質問と模範回答を英語で準備しておきましょう。手元にメモがあるだけで精神的な余裕が生まれ、相手の話を冷静に聞くことに集中できます。

さらにZoomのチャット機能を活用する手もあります。「質問はチャットでお願いします」と宣言すれば、リスニングのプレッシャーが一気に減ります。テキストなら知らない単語も調べられますし、落ち着いて回答を練れます。

プレゼンテーションを聞く側の立場でも同じです。事前に質問リストを英語で作っておき、積極的に話の流れをリードする。そうすれば言っていることが分からず黙ったままでいる状態を回避し、会議をコントロールすることができます。

テクノロジーをフル活用する
ビジネスのゴールは「流暢に話すこと」ではありません。「成果を出すこと」です。
そう割り切れば、使える武器は全て使うべきです。

Zoomにはリアルタイム文字起こし機能があります。「Otter」のような専用アプリと併用すれば、音声を可視化できます。聞き逃しても、テキストで確認できる安心感は大きいでしょう。
プレゼンを聞きながら質問を英文にまとめ、終了後にチャットで一気に送る——この作戦も有効です。事前準備の質問を使い回してもいいのです。プレゼン中に答えが出た項目だけ削除すればよいのです。

自動翻訳字幕は要注意
Zoomには会話を自動翻訳して字幕表示する機能もあります。ただしこれは慎重に。
英語がほとんど分からないレベルなら助けになりますが、ある程度話せる人が使うと、かえって混乱を招く恐れがあります。

実際に試してみると、英語と日本語の思考が入り混じって混乱することがあります。また、耳から入る音声情報と目から入る文字情報を同時に処理する必要があるため、非常に負荷がかかります。実は、2つの言語をリアルタイムで翻訳するには、単なる語学力以上の「2言語同時運用能力」が求められます。英語力が高い人であっても、同時通訳を行うのは難しく、同時通訳者は特別な訓練を積んでいます。

マインドセットを変える
まずは「英語力の高さではなく、コミュニケーション能力で勝負する」というマインドセットに切り替えましょう。しっかり準備を整え、テクノロジーを賢く活用すればうまくいくでしょう。応援しています。

Q.092


30代 金融機関勤務

海外の大学院でMBAを取得したく、IELTSのスコアをどう上げればよいか教えてください。

海外の大学院でMBAを取得したく、IELTSで7.0か7.5を取りたいです。現在の英語力はTOEIC L&Rで800点超、IELTSのオーバーオールスコアは6.0です(内訳:リスニング6.0、リーディング6.5、ライティング5.5、スピーキング5.5)。IELTSのスコアをどう上げればよいか教えてください。

A.

結論:まず志望校が求めるスコアを明確にしましょう。7.0と7.5では必要な学習時間が200日と300日と大きく異なります。戦略は「リスニングとリーディングで高得点を狙い、ライティングとスピーキングは堅実に」です。具体的には実際に受験して形式を知り、単語帳で3600語を覚え、本番形式の問題集を解き、試験テクニックを身につけることです。

7.0と7.5、数字以上の開き
行きたい大学院は決まっていますか。この確認が重要なのは、7.0と7.5の間には想像以上の壁があるからです。

目安として、IELTSスコアを0.5伸ばすには200〜300時間の学習が必要とされます。現状6.0から7.0を目指すなら400〜600時間。毎日2〜3時間の学習を200日間継続する計算です。

一方、7.5を目指すとなると600〜900時間。同じペースで300日間走り続けなければなりません。100日の差は決して小さくありません。

志望校が求める水準を正確に把握しておきましょう。なお、これらの数字はスペイン語やポルトガル語など英語に近い言語話者の指標です。日本語話者の場合、さらに時間を要する可能性があります。

スコア・メイキングの戦略
効率的にオーバーオールスコアを上げるには戦略が必要です。オーバーオールスコアは、リスニング・リーディング・ライティング・スピーキングの4技能の平均値です。

あなたの6.0というスコアは、日本で英語教育を受けた人の典型的な点数です。このような人が短期間でスコア・メイキングするには、ライティングとスピーキングで手堅くスコアを固め、リスニングとリーディングでさらに高スコアを目指すという戦略が有効です。

推奨する目標設定は以下の通りです。
・リスニング 7.5
・リーディング 7.5
・ライティング 6.0
・スピーキング 6.0
合計27点、平均6.75。IELTSでは0.75以上は切り上げられるため、オーバーオールスコア7.0が成立します。

このパターンのスコア・メイキングを提案する理由は、リスニングとリーディングの投資対効果がライティングとスピーキングより遥かに高く、結果も確実に出やすいからです。

加えてスピーキングには「採点者によるブレ」というリスクがあります。複数回受験すると、6.0から7.0の間を行き来することも珍しくありません。人間が評価する以上、避けられない現象です。

4つの実践ステップ
ステップ1: 本番を体験する
市販の模擬試験では、パソコンを使う本番の臨場感は再現できません。まず一度受験し、試験会場の雰囲気、パソコン操作、時間配分の感覚を掴んでください。百聞は一見にしかずです。

ステップ2: 3600語を頭に叩き込む
全技能の土台となるのが語彙力です。一定の単語レベルにある人向けの教材は、『はじめてのIELTS 単語対策 3600』(アスク出版)がよいです。リスニング、リーディング、ライティング、スピーキングそれぞれの章があるため、網羅的に学べます。

朝晩30分ずつ、計1時間。これを3〜6カ月続ければ、3600語に加えて類義語・対義語も定着するでしょう。
暗記のコツは「見る」こと。「書く」のは非効率です。1単語あたりの時間が膨らみ、結果として接触回数が減るからです。記憶の定着には反復頻度こそが鍵となります。

ステップ3:本番形式で実戦感覚を磨く
リスニングとリーディングのメイン教材には、ケンブリッジ大学出版の『IELTS 18 General Training Student's Book』シリーズを推奨します。やや高価ですが、最新の出題傾向が反映されています。現在第18版まで刊行されているので、古い版から順に毎日1時間解き進めましょう。

並行して、海外ドラマを英語字幕で大量に視聴することも効果的です。アクションよりドキュメンタリーやビジネス系など、会話量の多いジャンルを選んでください。隙間時間に流し続け、英語漬けの生活をつくる覚悟があるとよいです。この時間は学習時間に含めません。

ドラマの字幕を追えるようになれば、WPM(1分間に読める単語数)は200程度に達します。この速度があれば、IELTSでもリーディングの内容を理解できるようになり、高得点が視野に入ります。

WPMを上げるコツは、過去のQ&Aでも解説しています。ぜひあわせてご覧ください。Q&A「最速・最短でTOEIC L&R 900点を獲得できる勉強法を教えてください」

ステップ4: 試験テクニックは「読む」だけ
基礎学力があるあなたの場合、語彙力とWPMに加えて試験テクニックを習得すれば、スコアアップにつながります。
日本語のIELTS対策本を購入するのは悪くありませんが、「読む」に留めてください。問題を「解く」必要はありません。テクニックの理解は有益ですが、解くのには時間がかかります。その時間は、本番の試験に近い『IELTS 18 General Training Student's Book』(ケンブリッジ大学出版)シリーズに投資した方が効率的です。

この戦略でIELTS対策に取り組んでみてください。応援しています。

Q.093


30代 コンサルタント会社勤務

中学・高校までに学んだ英語力は、海外でどれくらい通用するのでしょうか?

中学・高校までに学んだ英語力は、海外でどれくらい通用するのでしょうか。海外出張に行ったとき困らない程度の英語力を身に付けるには、プラスアルファでどのような学習が必要か知りたいです。

A.

結論:中学英語の文法と単語で十分通用します。重要なのは3点。発音は中学レベル&カタカナ発音でOK、話す内容が相手にとって価値があること、そしてスピーキングよりリスニング力が鍵です。実務に近い教材でシャドーイングを毎日1時間、仕事で使うフレーズを100個覚え、想定問答を準備すれば海外出張は乗り切れます。

25歳、ベゾス氏の前で固まった日
私自身、あなたと同じ壁に直面した経験があります。その失敗こそが、今のサービスの出発点です。
1998年、25歳。新卒で入社した三菱地所を辞め、ソフトバンクに孫正義氏の秘書として転職しました。面接で「三木くん、英語は話せるかね?」と聞かれ、「まあ、日常会話なら……」と答えていました。実は日常会話の方がビジネス英語より遥かに難しいのですが、当時の私はわかっていませんでした。

入社1カ月後、孫社長から「三木、米国出張に行くぞ」と声がかかります。最初の訪問先はシアトルのアマゾン本社。相手はジェフ・ベゾス氏でした。
孫社長がその場で「ジョイントベンチャーを日本でやろう」と提案しましたが、ベゾス氏は変な笑い方でごまかしていました。私は自分の出番がなかったことに、密かに安堵していました。

ところが次のミーティングで事態は急変します。シリコンバレーのヤフー本社。創業者のジェリー・ヤン氏、当時CEOのティム・クーグル氏との会談で、突然、私が作成した資料の説明を自らすることになったのです。質疑応答まで任されました。
極度の緊張から、途中で完全に言葉が出なくなりました。孫社長が「こんな資料を作れる彼は優秀なんだ」とフォローしてくれてなんとか乗り切りましたが、申し訳ない気持ちでいっぱいでした。

米国出張時の孫正義氏(中央)と、三木(左)
米国出張時の孫正義氏(中央)と、三木(左)
帰国後、すべてを見直した
この経験が転機になりました。帰国後、あらゆる英語学習法を調べ、「効率的に英語を習得する方法」を徹底的に研究したのです。
そこで気づいたのは、英語学習には明確な「ゴール設定」が不可欠だということ。そしてそのゴールを決める上で決定的だったのが、出張中のある発見でした。
それは孫社長の英語そのものでした。

2017年、バルセロナで開催された世界最大のモバイル機器見本市「Mobile World Congress」。孫氏のオープニングスピーチをぜひご覧ください。AIの未来について情熱的に語っています。(https://youtu.be/jIEfPlvnLFw

孫氏の英語から学ぶ3つのポイント
1. 中学英語とカタカナ発音で十分戦える
スピーチには「singularity(技術的特異点)」「ARPU(ユーザー当たり平均収益)」といった専門用語が登場します。でもこれらは業界特有の言葉。ネイティブ話者でも知らない人は知りません。つまり難解な単語を闇雲に暗記する必要はないのです。

2. 話す内容が相手にとって価値があることが重要
孫社長のスピーチは、業界の課題を数字で語ることで聴衆を引き込みます。常に相手の心を掴む切り口を用意しています。流暢さより、相手にとって価値ある内容をどれだけ準備できるかが勝負です。

3. 話す力より聞く力が会話を成立させる
自分が話す内容は事前に準備できます。しかしその後の質疑応答で相手が何を言っているか理解することが重要です。

実践的な学習法
この3つのポイントを前提に孫社長の英語を目標にした結果、現在のトライズにおける学習プログラムの原型が定まりました。
基本的には、実際の仕事に近い教材を使い、必要な単語とフレーズを習得します。シャドーイングでリスニング力を徹底的に鍛え、英会話レッスンでは発音の完璧さは追求しません。ただしイントネーションとアクセントはシャドーイングで身につけます。

シャドーイングの方法については、過去のQ&Aで解説しています。ぜひあわせてご覧ください。
Q&A「シャドーイングについていけません。効果を感じるのにどのくらい時間がかかりますか?

あなたがコンサルタント業なら、担当業界や出張先に関連する実践的な教材を選びましょう。シャドーイングは毎日1時間が目安です。
次に、出張で話す内容を日本語で整理し、英訳して予習します。ミーティング中に参照できるよう、要点をメモにまとめておくと安心です。
さらに英会話スクールでそのメモを使い、質疑応答のリハーサルをすることも効果的です。単語は中学レベルに加えて業務で使う専門用語、フレーズは仕事でよく使う言い回しを100個覚える——業務遂行に必要最低限の英語力をまず固めてください。

その後、難しい単語やフレーズを覚え、発音を矯正してより高いレベルの英語を目指しましょう。段階的に進むことが肝心です。最初から完璧を目指すと、かえって英語を話す機会が減り、上達が遠のきます。

孫氏はその英語で、スティーブ・ジョブズ氏、ビル・ゲイツ氏、ジェフ・ベゾス氏などと渡り合ってきました。非英語ネイティブ話者としては十分なレベルです。まずは孫氏の英語を目標に英語学習を始めてみてください。応援しています。

Q.094


40代 建設会社勤務

英語で商品をアピールするのが難しいです。どう特訓すべきでしょうか?

海外顧客に英語で商品をアピールするのが難しいです。他に似たような打ち合わせの場を英語で取り仕切ってみる、あるいは展示会のような場所で海外からの来訪者と話をしてみる、といった特訓をするのがいいでしょうか。

A.

結論:実際のミーティングや展示会での特訓は極めて効果的です。5ステップで進めましょう。①過去の商談で言えなかった単語をリスト化、②上司の商談を録画して研究、③想定質問を準備、④実践、⑤振り返り。ただしリスニング力が不足している場合は、シャドーイング学習も並行して行う必要があります。

実践こそ最強の学習法
実際のミーティングや展示会での特訓は、大変優れた学習法です。
大人の学習では、学習内容と目的・理由の結びつきが強いほど効果的に学べることが分かっています。このことをインストラクショナル・デザイン(学習工学)では「メリルの第一原理」と言います。

メリルの第一原理とは、インストラクショナル・デザインの世界的権威であり、米国の産業心理学者M・デビッド・メリル氏が提唱した学習設計の基本原則です。メリル氏は、トライズ語学研究所のフェローに就任しています。

この原則は5つの要素で成り立っています。
1.課題志向の学習
2.学習者の活性化
3.デモンストレーション
4.適用
5.統合
これらを組み合わせることで、学習者がより深く理解し、実際に使える知識を身につけることができます。

も重要とされているのが①「課題志向の学習」で、現実世界で起こりそうな問題の解決に学習者を引き込むことがポイントです。あなたの考える「実際のミーティングや展示会での特訓」はまさにこれに当てはまります。残りの②~⑤の原則について、具体的な特訓方法を紹介します。

三木(左)とM・デビッド・メリル氏(右)
三木(左)とM・デビッド・メリル氏(右)
ステップ1:過去の失敗から学ぶ
②「学習者の活性化」では、準備と復習をするという学習サイクルを意識することが重要です。

過去のミーティングや展示会で使ったスライドやパンフレットを用意してください。その際、自分が英語で十分に言えなかった単語やフレーズをリスト化していきましょう。相手から受けた質問なども書き出しておくとよいです。

この取り組みによって課題が明確になるだけでなく、自分自身の持っている英語の能力が活性化されます。作成したリストは今後の学習のベースとして活用できます。学ぶべき内容が明確になることや、過去に感じた悔しさが想起されることで学習意欲が高まります。

ステップ2:成功例を研究する
③「デモンストレーション」とは、実際に行われたミーティングや展示会の実例から学ぶものです。

可能であれば、上司や先輩が英語でプレゼンテーションを行う商談に同席してみましょう。その際、動画や音声を記録しておくと後で復習に役立ちます。
現在はオンライン会議の録画データが自動的に入手できるケースも多いので、それらを活用するのも有効です。自社製品やサービスの説明はそのまま活用できますし、プレゼン全体の流れや表現方法を学ぶ参考にもなります。

ステップ3:実践の準備をする
ここまでできたら、④「適用」のフェーズに移ります。実際のミーティングや展示会での商談・プレゼンに向けた準備を進めましょう。重要なのは、②「学習者の活性化」で作成したリストと、③「デモンストレーション」で研究した成功例を最大限に活用することです。
ここで言う「準備」とは、すべてを暗記することではありません。スライドやメモに必要な単語・フレーズを書き込んだり、想定される質問と回答を用意したりすることを指します。

なぜこのアプローチが有効なのか。それは本来の目的が「英語力の向上」ではなく「業務上の課題解決」だからです。

ステップ4:実践と振り返り
最終段階は⑤「統合」です。①から④で準備してきた内容を、実際のミーティングや展示会で実践してみましょう。
ここで最も重要なのが「振り返り」のプロセスです。メリル氏が定義する真の「学び」とは、実際にやってみて経験して、そこから再び学ぶことを指します。
具体的には、商談や展示会の後、できたこととできなかったことを箇条書きで記録してください。そうやってさらに高いレベルを目指し継続して学習を続けることが重要です。
このようにメリルの第一原理に基づいて「実際のミーティングや展示会での特訓」をすることは非常に効果的なのです。

リスニング力が鍵を握る
最後に1点、留意してほしいことがあります。それはリスニング力の確保です。
もし商談や展示会で英語の質問を受けた際、内容をしっかり聞き取れなかった経験があるなら、リスニング力の強化が必須です。なぜなら、どれだけ話す力があっても、相手の質問が理解できなければ適切な回答ができないからです。

日本語でも、「ランチどこに行く?」と聞かれて「〇〇屋」と単語で答えるだけで会話は成立します。つまり、相手の発言を正確に理解できれば、自分の返答は最小限でも問題ないのです。その意味では、スピーキング力よりリスニング力のほうが重要とも言えます。

もし英語の質問が聞き取れないという課題があるなら、シャドーイング学習※を重点的に取り入れてください。この点を見落とすと、せっかく準備した商談も成果につながりにくくなります。

ぜひ今回ご紹介した実践型特訓にチャレンジしてください。応援しています。

※シャドーイング学習については、過去のQ&Aでも解説しています。ぜひあわせてご覧ください。
Q&A「Netflixをシャドーイング教材として効果的に活用する方法はありますか?

Q.095


30代 広告代理店勤務

英語のアウトプットをする機会が少ないです。どのように機会をつくればよいでしょうか?

社会人で、英語に関わる仕事をしていない場合、英語のアウトプットをする機会が少ないです。特にスピーキング力を向上させたい場合、どのようにアウトプットする機会をつくればよいでしょうか?

A.

結論:2つの方法を提案します。第一に、スマートフォンアプリ「AI英会話 無限トーク」の活用です。年間4,200円から利用でき、テーマやシチュエーション別の会話練習が無制限にできます。第二に、駅や観光地で困っている外国人旅行客に声をかけることです。AIアプリは低コストで効率的ですが、人とのコミュニケーションには「驚き」や「発見」という要素があり、両方を組み合わせることで効果が最大化されます。

AI英会話アプリの4つの強み
スピーキング力向上のためのアウトプット機会として、まずお薦めしたいのがスマートフォンアプリ「AI英会話 無限トーク」です。このアプリはAI(人工知能)と英語で会話ができ、話した内容を同時にテキスト化してくれます。
このアプリの優位性は4点あります。

1.圧倒的な低価格
機能制限がある無料版に加え、制限なしの有料版は年間4,200円(広告あり)または9,900円(広告なし)です。時間制限なく利用できます。人間のコーチと無制限に話すことは費用面でも物理的にも非現実的ですが、このアプリなら実現できます。同様のアプリは月額4,000円以上するため、桁違いに安いと言えます。

2.多様な英語に対応
米国英語だけでなく、英国英語やオーストラリア英語も学べます。AIキャラクターは12種類用意されており、米国英語8種、英国英語とオーストラリア英語が各2種ずつです(無料版は6種)。

3.会話テーマのカスタマイズが可能
趣味や出身地、家族などの基本テーマに加え、自分で好きなテーマを設定できます(有料版のみ、無料版は「フリートーク」のみ)。例えば広告代理店勤務なら「アフィリエイト広告」をテーマに設定することも可能です。

4.シチュエーション別の実践的な会話
レストランや空港、スーパーなど「シチュエーション別の会話」もできます(有料版のみ)。さらに、あらかじめ用意されたシチュエーション以外に、自分で新しいシチュエーションを追加することも可能です。

例えば魚屋での会話なら、「場所」「自分の立場」「相手の立場」「会話テーマ」を細かく指定できます。試しにそれぞれ「魚屋」「客」「店主」「うまい魚の選び方」と指定すると、おいしい魚の選び方をテーマに会話ができ、追加の質問にもシチュエーション設定に合わせて答えてくれました。

その他の便利機能
このアプリには英作文の評価機能(無料)もあり、日本語で出される問題に英語で答えると正誤を判定してくれます。添削のコメントも優れています。
さらに会話で出てくる単語をダブルタップするだけで単語帳に登録できます。会話に出てきた単語でアプリに登録されていない単語があれば、それを単語帳に追加して自分だけの単語帳を作れます。学習管理機能もあり、学習時間や会話数なども日次で管理できます(いずれも無料版で利用可)。

まずは無料版で試してみてください。対面レッスンで緊張しやすい方にとっては、気軽に始められる最適なアプリです。ただし、AIとの会話には、人とのコミュニケーションで得られる「驚き」や「発見」といった楽しさはありません。ご自身がAIとのやり取りにモチベーションを持ち続けられるかどうか、無料版を使って判断してみることをおすすめします。

人とのコミュニケーションという選択肢
一方で、AIを相手にしたレッスンではモチベーションを維持できず、継続が難しい方もいるでしょう。実際、私自身も人とのコミュニケーションそのものを楽しみにしているため、AIとの会話は数分で物足りなく感じてしまいます。英語を「人と交流するための手段」と考えると、AIアプリには限界があると感じます。

そこでおすすめしたい、もうひとつの手軽で効果的なアウトプット方法があります。それは、街中や駅で困っている海外からの旅行者に声をかけて助けることです。切符の購入や道案内は意外に難しく、戸惑っている方も多いものです。私自身、羽田空港へ行くはずが誤って成田に来てしまった旅行者をサポートしたことがあります。京成線から京急線への乗り換えを案内する過程で、家族や日本滞在についてなど、さまざまな話題で会話ができました。

英語を使って実際に人を助ける経験は、アウトプットの練習になるだけでなく、大きな達成感や喜びにもつながります。このような体験が、英語学習を続けるための強いモチベーションとなるはずです。

両方の良さを活かす
AIとの英会話レッスンと、人とのコミュニケーションには違いがあります。「AI英会話 無限トーク」を活用しつつ、実際に人と英語で会話する機会も積極的に作ってみましょう。また、自分の学習ゴールに合ったレッスンを提供してくれる英語スクールに通うのも一つの選択肢です。ぜひ検討してみてください。応援しています。

Q.096


20代 IT企業勤務

三日坊主で継続が苦手です。英語学習はどう習慣化できますか?

私は三日坊主で物事を継続的に続けることが苦手です。オンライン英会話の学習を習慣化させるには、週に何回、何時間、どのくらいの期間続けると習慣化しやすいかなど、目安はあるのでしょうか。

A.

結論:習慣化には平均66日かかりますが、英語学習のような複雑な行動では1カ月が目安です。習慣化のコツは3つ。①既に習慣化している行動(歯磨きなど)をトリガーに設定、②最初は5分の音読など小さく始めて徐々に拡大、③努力のプロセスを記録して自分を褒める。基本的に毎日取り組むことが重要です。

習慣化には想像以上に時間がかかる
「三日坊主」という言葉がありますが、学習を習慣化するには誰でも一定の時間が必要です。問題は、わずか3日では習慣が身につくには短すぎるという点です。あなた一人が三日坊主で悩んでいるわけではありません。では、習慣化にはどれくらいの期間が必要なのでしょうか。

習慣化に関する著名な研究として、英ロンドン大学のフィリッパ・ラリー博士による論文「How are habits formed: Modelling habit formation in the real world」があります。この研究では、96人の学生ボランティアが12週間、毎日同じ状況で実行する飲食行動や活動(昼食と一緒に果物を食べる、昼食と一緒に水を1本飲む、夕食前に15分間走るなど)を選んで、習慣化できるまでの期間を調べました。

習慣化の程度は、「自動的にやってしまう」「考えずにやってしまう」「やらないのは難しい」といった基準で毎日自己報告してもらい、評価しました。その結果、以下のことが分かりました。

1.人が習慣化を完了するまでにかかる期間は18日から254日とばらつきがあり、非常に長い時間がかかる可能性がある。平均を取ると66日である
2.個人間でばらつきがかなりある
3.習慣化にかかる期間は、習慣化しようとする行動の複雑さに依存する

この研究は、習慣化のメカニズムを理解する上で非常に参考になりますが、いくつか留意する点もあります。

英語学習なら1カ月が目安
この調査で扱われた行動には、比較的単純なものが含まれていました。例えば「昼食と一緒に水を1本飲む」という行動は非常に簡単です。一方、「夕食前に15分間走る」となると、少しハードルが高い行動と言えるでしょう。この差が、習慣化にかかる期間の18日から254日までのばらつきにつながっています。

では、この結果を英語学習に当てはめてみましょう。英語学習は比較的複雑な行動に分類されるため、18日で習慣化できる可能性はほとんどありません。しかし、254日かかるのも現実的ではないでしょう。では、実際に英語学習の習慣化にかかる期間を調べた研究はあるのでしょうか。厳密な科学的な実験とは言えませんが、私が運営している英語コーチングスクール「トライズ」には実績データがあります。

トライズでは、受講開始から1カ月を超えて途中でやめる人はごくわずかで、毎月1%未満です(なお、最初の1カ月は全額返金制度があるため、やめる場合はこの期間内にやめる傾向があります)。さらに1カ月以降にやめる場合も、「本人や家族の病気」や「部署異動で英語が不要になった」など、ほとんどが外的な理由であり、モチベーションの低下が原因ではありません。
ですから受講開始から1カ月を超えると、ほとんどの人が学習を習慣化できるのではないかと考えています。

習慣化に重要な3つのコツ
では、どのように習慣化を進めたらよいのでしょうか。習慣化にはいくつかのポイントがありますが、主に3つのコツを紹介します。どれも米スタンフォード大学行動デザイン研究所の創設者であるB・J・フォッグ教授の説に基づいています。

1.トリガー(きっかけ)を設定する
例えば、「歯を磨いたらシャドーイングをする」と決めるとします。この場合、歯を磨く行為がトリガーになります。歯磨きは多くの人にとってすでに習慣化されている簡単な行動です。こうした既存の習慣と新しい行動を結びつけることで、新しい行動も習慣化しやすくなります。
一方で、「筋トレをしてからシャドーイングをする」という方法はあまりおすすめできません。習慣化されていない、あるいは難しい行動はトリガーとして十分に機能しないためです。

2.小さなことから始める
トライズでは1日3時間の学習を推奨しています。しかしこの目標を難しいと感じる人は多いですし、無理に押し付けても効果は期待できません。そこで、まずは少ない時間で簡単な学習からスタートし、徐々に学習時間とレベルを上げていきます。

例えばシャドーイングも、最初から完璧を目指す必要はありません。まずは5分間、テキストを見ながら音読するところから始めます。その後、少しずつ時間を延ばし、最終的にはテキストなしでシャドーイングできるように練習していけば十分です。ポイントは、学習の質と量を段階的に増やしていくことです。

3.フィードバックで褒める
トライズでは、コンサルタントが受講者を褒めることはもちろんですが、受講者自身が自分を褒めることも推奨しています。「今日も頑張った!」「少しずつ理解できてきた!」といった声かけを自分に行うことで、学習の習慣化がさらに進みます。

自分の学習成果を客観的に評価するのは難しいですが、努力のプロセスを可視化することは可能です。ある受講生は、シャドーイングを行うたびにテキストに「正」の字を書き、何回練習したかを記録していました。そして1日や1週間ごとに振り返り、自分がどれだけ努力したかを確認して自分を褒めていたそうです。

結果、この受講生は1年後、当初の計画を超える成果を上げて修了しました。自分自身で「褒めるフィードバック」を取り入れることで、学習効果を高めることは十分に可能なのです。

毎日取り組むことが基本
基本的には、毎日英語を学習することが重要です。日曜日を休養日や予備日にするのは問題ありませんが、平日に学習を休む日を設けるのは避けたほうがよいでしょう。「今日はやる日かな?」と考えるだけで、行動のハードルが上がり、いわゆるマイナスのトリガーになってしまうからです。

こうした工夫を自分で行えるようになれば、英語学習を1カ月で習慣化することも十分可能です。まずは1カ月間、集中して英語学習に取り組んでみてください。応援しています。

Q.097


40代 メーカー勤務

三日坊主で継続が苦手です。英語学習はどう習慣化できますか?

英語を学ぶために、ドラマ「アンという名の少女」を字幕なし・字幕ありで何度も視聴しています。字幕なしだとストーリーは分かるものの、会話の内容はほとんど理解できません。スラスラ聞き取れるようになるには、どのように学習すればよいでしょうか?

A.

結論:ドラマを使ったリスニング学習では、まず字幕を活用して内容を理解し、その上で段階的にシャドーイングやパラレル・リーディングを取り入れることが最も効果的です。

まず、好きな作品を教材として使うこと自体は非常に有効です。学習を継続できることが、英語力を伸ばすうえで最も重要だからです。私自身も25歳のとき、映画『ウォール街』を教材に学習していました。好きな映画であれば、繰り返し視聴しても飽きず、学習を習慣化しやすくなります。

しかし、何度視聴しても理解できない箇所が多い場合は、字幕付きで視聴する工夫が必要です。おすすめは、無料で利用できるGoogle Chromeの拡張機能「Language Reactor」です。これを使えばNetflixで日本語と英語の字幕を同時表示でき、分からない単語にカーソルを合わせると意味も確認できます。(2025年10月現在、「アンという名の少女」は、Netflixで視聴できます。)

学習のステップとしては、まず以下の順番で進めます。
1.1回目は字幕なしで視聴:全体のストーリーを把握します。
2.2回目以降は英語字幕で視聴:理解できない箇所を確認します。
3.日本語字幕で補足:分からない部分を補強します。

1回で全てを理解する必要はありません。1週間程度かけて、部分的に何度も繰り返し視聴することで内容を理解しましょう。

Language Reactor の使い方や機能については過去のQ&Aでも解説しています。ぜひあわせてご覧ください。
Q&A「Netflixをシャドーイング教材として効果的に活用する方法はありますか?

パラレル・リーディングで音と文を結びつける
内容がある程度理解できたら、「パラレル・リーディング」に進みます。これは、英語の音声を聞きながら英語字幕を見て、同時に音読する学習法です。文字と発音の結びつきを理解できるだけでなく、次に行う「シャドーイング」の予行演習にもなります。

ポイントは、登場人物になりきって音読することです。イントネーションや表情、身ぶり手ぶりまでまねることで、英語の自然な話し方を体で覚えられ、定着度も高まります。これにより発音の速度が向上し、日本語的な発音の癖も矯正されます。

シャドーイングでリスニングと発音を鍛える
パラレル・リーディングができるようになったら、字幕なしでシャドーイングに取り組みます。字幕を表示せず、音声に少し遅れて発音をまねしていきます。

Netflixの再生速度は調整可能ですが、0.75倍より遅くするのはおすすめしません。シャドーイングの目的である発音速度の向上や、日本語風の発音癖を改善するためには、ある程度のスピードが必要です。

トライズ語学研究所顧問である第二言語習得の第一人者・門田修平氏も、速度を遅くするよりも、もともとの速度でシャドーイングを繰り返す方が効果的であると指摘しています。

1フレーズずつ繰り返し再生できるLanguage Reactorを活用し、1倍速で8割程度の精度でシャドーイングできるようになったら次のパートへ進みましょう。完璧を目指すよりも、一定レベルに達したら次に進むことが、モチベーション維持には重要です。こうして映画1本を丸ごとシャドーイングできるようになることを目標にしてください。

教材選びのポイント
映画やドラマを学習教材にする場合、長時間投資することを前提に、自分の目標に合う作品・興味のある作品や好きな俳優が出演する作品を選ぶことが大切です。英語力が足りない場合はシャドーイング教材用の本でも構いませんが、可能であれば今回紹介したステップを踏んで、「本当に自分の目標に合い、興味を持てる映画やドラマを使う方がいい」と考えています。

いかがでしょうか。このように段階的に環境を整え、パラレル・リーディングとシャドーイングを組み合わせることで、「アンという名の少女」もリスニングの英語学習教材として活用できます。映画1本を完全にシャドーイングできるようになるには、最短で3カ月、長ければ半年かかります。しかし、この過程をやり遂げれば、リスニング力は飛躍的に向上します。継続して取り組むことが最も重要です。応援しています。

Q.098


50代 会社経営

留学前にどのくらいの英語力が必要でしょうか?

大学生の子どもが来年、オーストラリアに語学留学する予定です。留学前に、語学学習をしておいたほうがいいと聞いたのですが、どれくらいのスキルがあるといいのでしょうか?

A.

結論:留学前に必要な英語力には2つの指標があります。最低限必要なのは「中学レベルの英文法と3000語の単語力(英検3級〜準2級)」。これがないと留学の効果が薄く費用対効果が悪化します。理想は「TOEIC L&Rで800点以上」。このレベルで留学すれば半年間で飛躍的な成長が見込めます。ただし、それ以上に重要なのは、お子さんと留学の目的・ゴール・学習計画を事前に合意形成することです。

留学前に親子で合意すべきこと
留学を成功させるために親が把握すべきことは、現在の英語レベルだけではありません。渡航から帰国までの全行程を、お子さんと共にステップごとに可視化し「合意すること」が大切です。

「留学前に、語学学習をしておいたほうがいいと聞いた」というご質問から察するに、お子さんとの対話が十分に深まっていない可能性があります。

学習工学の観点では、学習プログラムには明確なゴールが必要です。学習開始時のレベルから、決められた期間内にそのゴールに到達できるように、プログラムをデザインすることが前提となっています。
したがって今回のケースでは、留学目的を明確化、現状の英語力の把握、必要な学習計画を設定して留学の準備をする——この3点セットが必須となります。

目標設定の詳細は後述するとして、まず「どの程度のスキルが必要か」という質問に回答します。留学前に求められる英語のスキルには、目指すべき2つの基準があります。

指標1:最低限のライン(英検3級〜準2級)
第一の基準は「中学レベルの英文法と3000語レベルの単語力」です。英検でいうと3級から準2級に相当します。留学前には必ずこのレベルに達している必要があります。
理由は明白です。この基礎がないまま渡航しても学習効率が低く、結果として多額の費用が無駄になるリスクが高いためです。英語を母国語とする環境にいない限り、一定レベルの文法知識と単語力は不可欠です。
ただし、日本の義務教育課程でもこの水準には到達できるため、過度な心配は不要でしょう。

参考までに、英語教育の先進国フィンランドでも、初等教育段階で文法と語彙を徹底的に学習します。フィンランド語は他の欧州言語と系統が異なり、英語との言語距離が日本語と同程度に遠いためです。相違点は、フィンランドでは小学校段階で日本の中学相当レベルまで到達してしまうスピード感にあります。

日本では小学校から漢字習得に時間を割く必要があり、進度が違うのはやむを得ないことだと思います。ある意味、中国語の一部分を同時習得しているようなものだからです。

指標2:理想のライン(TOEIC L&R 800点)
第二の基準は「英検準2級をやや上回るTOEIC L&R 800点以上のレベル」です。このレベルの場合、文法力は英検準2級より高く、単語数も約8000語に達していることが一般的です。加えてリーディング速度が180WPM程度に到達していることが求められます。WPMとは「Words Per Minute」の頭文字をとったもので、1分間当たりに読める英単語数を指します。

WPMについては過去のQ&Aでも解説しています。ぜひあわせてご覧ください。
Q&A「海外の大学院でMBAを取得したく、IELTSのスコアをどう上げればよいか教えてください。

この2つの基準を踏まえ、まずお子さんの現在地を確認してください。仮に英検3級〜準2級水準に達していない場合、最低でも3級合格を実現してから留学を検討すべきです。1日3時間の学習を真剣に継続すれば、ゼロからでも半年でこの水準に到達できます。

英検準2級は超えているがTOEIC L&R 800点未満という場合、留学前に800点到達を目標に学習することを推奨します。800点を携えて半年間留学すれば、英語力の飛躍的向上が期待できます。トライズの実績データでも、TOEIC L&R 800点以上の受講生は、それ未満の受講生と比較して短期間で英語力が大きく伸びるという実績が出ています。

留学前にゴールを数値化する
必要な英語力を理解したら、次は「留学目的」の明確化です。留学の目的は人によって様々ですが、お子さんのケースは語学習得です。この場合はTOEIC L&RやVERSANT、IELTSなどのテストで英語力を数値化し、留学前にゴールを設定しておくとよいでしょう。

留学中もこれらのテストを定期的に受けて、進捗を把握することが重要です。順調であれば現行の学習を継続すればよく、伸び悩んでいるなら留学先での生活習慣や学習方法を見直す機会になります。なおTOEIC L&Rはオーストラリアでも受験可能です。

留学の成果を高めるためには、英語資格試験による現状把握と、それに基づいた準備が不可欠です。加えて留学中も設定したゴールに向けて、継続的な英語力の測定と改善サイクルを回すことが成功の鍵です。

ぜひお子さんとよく話し合って合意形成の上、準備を進めてください。有意義な留学になるよう応援しています。

Q.099


20代 メーカー勤務

会社負担の英語研修に対するモチベーションが上がりません

会社の人事部からの依頼で、費用を会社負担の英語研修を受けています。ですが、自費ではないため「元を取らなきゃ」という気持ちが湧かず、なかなかモチベーションが上がりません。いずれは海外への長期出張の予定もありますが、それもまだ先の話です。英語学習に対するモチベーションを維持し続けるコツを知りたいです。

A.

結論:モチベーション維持には「自己責任」「会社命令」「自己負担」の3要素が機能しますが、あなたのケースではいずれも欠けています。解決策は3つ。①将来の出張で必要な英語力を把握し具体的なゴールを設定、②「依頼」を「期待」と読み替えグローバル人材候補としての自覚を持つ、③会社プログラムだけでなく自己負担で追加学習を行う。この3点で欠けている要素を自ら創出できます。

英語習得に成功する2つのパターン
質問内容から推察すると、あなたの会社は日本企業でありながら非常に恵まれた環境を整備しているようです。「命令」や「指示」ではなく「依頼」という形であることに少し驚くと同時に、日本企業特有の配慮の深さを感じます。

本題に入る前に、1日3時間・年間1000時間の学習プログラムを完遂し英語を習得した人々に見られる2つのパターンを紹介します。あなたの疑問を解くヒントになるでしょう。

パターン1:外資系企業の自己責任型
一つ目は、GAFAなど外資系ビッグテック企業の社員です。トライズにもこうした企業からの受講生が多数在籍しています。業務上英語が必須のため受講する人もいれば、米国本社への転籍を見据えてスキルアップを図る人もいます(コロナ禍以降、米国本社での人員削減により転籍の機会は減少しているようですが)。

転職後に英語力不足が判明した場合、会社が推奨する英会話スクールのリストが提示され、自己判断で選択します。トライズを受講される方はこうしたケースが多いです。

ただし会社はスクールを推奨するのみで、費用負担はゼロ。勤務時間中の学習も認められず、英語力向上が人事考課に反映されることもありません。外資系らしいドライな姿勢で、能力開発は完全に「自己責任」とされます。

このパターンに該当する受講生は、業績向上に英語が不可欠と認識し、全額自己負担で熱心に学習します。結果として日本支社で卓越した実績を上げたり、本社への転籍を実現したりする人も少なくありません。

パターン2:日本企業の選抜型
二つ目は、日系企業でグローバル人材育成対象に選ばれ、業務命令として英語学習を行うケースです。医薬品や食品業界など、グローバルな事業展開を推進する企業に多く見られます。

このケースでは企業が費用を全額負担し、所属部門と調整して勤務時間内の学習体制を整えていることもあります。英語力向上を人事評価に組み込む企業も存在します。そのため受講生も意欲的に取り組み、成果を上げる傾向があります。このパターンも、英語学習のモチベーションアップに効果的です。

その他:成果連動型補助
最後にご紹介したいのが、受講生が最初に全額自己負担で契約し、一定の成果達成後に企業が全額または一部を補助するパターンです。このケースでも、初期の自己負担がモチベーションとして機能し、英語学習に熱心に取り組む傾向があります。

あなたのケースの構造的課題
あなたのケースは、会社が全額負担し、強制・命令ではなく自主性に委ねる「手上げ式」のようです。このパターンは一般企業の英語研修でよく見られます。

研修が機能する3要素は「自己責任」「会社命令」「自己負担」ですが、あなたのケースではいずれも欠けているようです。業務上の緊迫感はなく、人事からの依頼に過ぎず、金銭的負担もない。したがって、この3要素に近い状況を自ら創出する必要があります。

モチベーション構築の3ステップ
ステップ1:自己責任の意識を持つ
「いずれ海外長期出張がある」とのことですから、その際に求められる英語力を具体化しましょう。同様の出張経験者にヒアリングし、実際にどの程度の実力が必要だったか確認してください。必要な英語力の目安が把握できれば、学習ゴールが明確になります。

加えてスピーキングテストなどを活用し、具体的な目標スコアを設定してください。数値目標があれば学習の方向性が定まります。

ステップ2: グローバル人材としての期待を自覚する
「依頼」という表現でも、会社があなたに期待していることは疑いようがありません。「依頼」を「会社命令」と前向きに解釈し直し、将来のグローバル人材候補としての期待を自覚しましょう。
日本企業は早期選抜を表立って示さない傾向がありますが、水面下で期待されている可能性は十分あります。

ステップ3:追加投資で学習量を増やす
会社提供の研修プログラムだけでは、あなたが目指すべき学習ゴールに到達できない可能性があります。そこで自己負担で追加学習を実施しましょう。書籍での独学、他スクールへの通学など選択肢は多様です。
学習のゴールと現在の英語力のギャップを埋めるには、個別対策が不可欠です。

あなたはとても恵まれた環境にいます。この3つのステップを実践し、高いモチベーションを維持して英語学習に取り組んでください。この経験は、あなたのキャリアにおける大きな転換点となるでしょう。応援しています。

Q.0100


20代 メーカー勤務

TOEIC L&Rのリスニングを聞き逃してしまいます。どのように学習したらよいでしょうか?

日常会話であればある程度聞き取れるのですが、TOEIC L&Rのリスニングでは途中で聞き逃してしまい、内容を正確に理解できないことが多く、スコアが伸びません。リスニング力を高めるためには、どのような学習法が効果的でしょうか。

A.

結論:日常会話とTOEICでは求められる能力が異なります。原因は3つ。①語彙不足(日常会話は3000語で足りるが800点以上には8500語必要)、②正確性の欠如(引っ掛け問題を見抜けない)、③処理速度不足(160〜200WPMの音声を聞きながら問題文を読む必要がある)。対策は、目標スコア別単語集の活用、ディクテーションで正確性強化、音声速度を徐々に上げるシャドーイング訓練です。

日常会話とTOEICの決定的な違い
日常会話がある程度理解できることは素晴らしいことです。しかしTOEIC L&Rでつまずくのには明確な理由があります。主な要因は3つです。

要因1:単語・熟語の絶対量が不足している
日常会話では、人名や固有名詞を除けば「オックスフォード3000(オックスフォード大学が選定した最初に学ぶべき3000語)」を習得していれば、内容の95%以上を理解できるとされています。おそらくあなたもこの水準はクリアしているでしょう。

ところがTOEICで高得点を狙うには、これでは不十分です。800点以上を目指すなら8500語以上、900点以上を狙う場合には1万語以上が必要とされています。ざっくりと、目指すスコアに応じて10倍以上の単語を覚える必要があるのです。

さらにTOEICでは、知らない単語が登場すると正解が困難になる問題が多数含まれています。そのため、まず単語力を強化しなければ高スコアは望めません。熟語の知識も同様に重要です。

要因2: リスニングの正確さが足りない
日常会話では、聞き取れない箇所があっても文脈から推測してコミュニケーションが成立することが多いですが、TOEIC L&Rではそうはいきません。テストでは、曖昧な理解のまま選択肢を選ぶと正解できない問題が出題されます。

その典型が引っ掛け問題です。例えば問題文に「desert(砂漠)」が使われていて、選択肢に発音が類似している「dessert(デザート)」がある場合、音の類似性から誤って選択してしまうことがあります。

要因3: 聞き取り、読み取り速度の不足
TOEIC L&RのPart3とPart4では、リスニングしながら同時に問題文と選択肢を読み、解答しなければなりません。このため、聞き取り・読み取りの処理スピードを向上させることが高得点獲得の鍵となります。

TOEIC L&Rのリスニングパートの音声速度は160〜200WPM(1分当たりの単語数)です。これは英語のニュースよりやや遅い程度。この速度に追従する力が求められます。

加えて問題文と選択肢もかなりの分量があるため、これらを素早く読むことも重要です。目標としては、読解速度も160WPM程度が理想です。

スコアアップのための3つの対策
では、これら3つの課題を克服するにはどのような学習が必要でしょうか。

対策1:目標スコア別の単語集・熟語集を徹底する
この課題克服には、TOEIC対策用の単語集・熟語集の活用が必須です。ポイントは自分のレベルに合った教材を選ぶことです。目指すスコアが600点、800点、990点なのかを考慮して適切な教材を使いましょう。

目標スコア別、おすすめの教材を紹介します。
600点:『TOEIC TEST必ず☆でる単スピードマスター』『キクタンTOEIC L&Rテスト SCORE 600』
800点:『TOEIC TEST必ず☆でる単スピードマスター上級編』『キクタンTOEIC L&Rテスト SCORE 800』
990点:『キクタンTOEIC L&Rテスト SCORE 990』『英語を英語で理解する 英英英単語 TOEIC L&Rテスト スコア990』

対策2:ディクテーションで精密性を鍛える
リスニングの正確性向上にはシャドーイングが有効ですが、それに加えて「ディクテーション」を実施すると、より正確にリスニング力を鍛えることができます。

ディクテーションとは、リスニングした内容を文字に書き起こす学習法です。書くことで、何となく聞き取れているかではなく、すべてをしっかり聞き取れているかどうかを確認できます。先ほど例に挙げた「desert(砂漠)」と「dessert(デザート)」のような、発音の類似した単語の区別もつくようになります。

シャドーイング学習については、過去のQ&Aでも解説しています。ぜひあわせてご覧ください。
Q&A「シャドーイングについていけません。効果を感じるのにどのくらい時間がかかりますか?

対策3:段階的に音声速度を上げる
聞き取り・読み取りの処理速度向上には、シャドーイングが基本ですが、さらに効果的なのは使用する教材の音声速度(WPM)を段階的に上げていくことです。TORAIZでは、教材の8〜9割を聞き取れるようになることを目指しますが、この段階に到達したら少しずつ音声速度を加速して練習することが大切です。

現在、教材アプリやYouTubeなどでは速度調整が簡単にできるため、この機能を使ってスピードに慣れておけば、本番でも余裕を持って対応できるでしょう。

試験当日の実践テクニック
試験本番でも、いくつか意識しておくと良い点があります。音声が流れる前の短い時間を活用し、まずは問題文を読み、余裕があれば選択肢にも目を通しましょう。ただし、無理に全てを確認しようとすると混乱する場合があるため、焦らず優先順位をつけることが大切です。

リスニング音声が流れ始めたら、冒頭部分に集中してください。5W1H(Who, What, When, Where, Why, How)の要素が最初に明らかになるため、これを把握できると選択肢を絞りやすくなります。

問題ごとに「問題文→選択肢→リスニング」の流れを一定のリズムでスムーズに進めることが重要です。このリズムを体得するには、過去問を使って繰り返し練習するのが効果的です。

日常会話とTOEIC L&Rのリスニングでは求められる能力が異なります。その違いを理解した上で、学習を進めてください。応援しています。